社会的責任をもったプログラミングについて

著者: Eric S. Raymond

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Eric S. Raymond による On Socially Responsible Programming の日本語訳である。

CPSR のノーバート・ウィーナー賞(過去には、Phil Zimmermann や IETF が受賞)に対するスピーチである。ESR が珍しく「自由」を全面に押し出しながらも、自他ともに認める銃マニアリバータリアン気質を十全に伝えるものになっている。

ノーバート・ウィーナーについてはちえの和WEBページにおける紹介、権利章典については原文を収録したページあたりも御参照いただきたい。


1999年10月2日、Computer Professionals for Social Responsibility(社会的責任を考えるコンピュータ専門家の会)が、オープンソース運動にノーバート・ウィーナー賞を贈ることになった。Larry Wall、Brian Behlendorf、Richard M. Stallman、そして私が授賞式に招待された。妻が手術から回復しつつあった時分だったので、私は出席できなかったが、Harry Hochheuser が私の代理として以下の所感を伝えてくれた。

紳士淑女の皆さん、CPSR が軽率にもわたくしめを招き、今夜コンピューティングにおける社会的責任について何言か喋らせようというのです。まあ私が第一の述べることは以下の通りです。つまり、誰かが「社会的責任」について喋るのを聞くと、私はリボルバー(連発拳銃)に手を伸ばしたくなるのです。

実際のところ、私はリボルバーなんて持ってやしないのですが、私は「社会的責任」というレトリックや大変な概念が、政治的な乱用によりひどく腐敗させられてしまっていると強く信じる者です。大抵の場合、「社会的責任」を呼びかける人々は、よりちょっとの税金、よりちょっとの規制、よりちょっとの政府の介入といったものを、社会における規範のためだと許容させ、我々に個人の自由を放棄するよう要求しているのです。

合衆国の建国の祖達は、自由というものを有益なものを得るために少しずつ利用しうるなんて考えないくらいの分別はありました。社会的責任を促進するため、彼らは個人の自由を、政府の生来の権力拡張志向傾向から保護すべく、合衆国憲法と権利章典を起草したのです。

私が今夜ここで訴えておきたいのは、それを思い出してほしいということ、そして活動を通してそれを表現してほしいということです。もし我々が社会的責任を持ったプログラマー足りたいと思うなら、我々の第一の義務は、自由を保護し、拡大することで、特に権利章典に保証された個人の自由を保護することです。

権利章典修正第一条を心に留めるなら、いかなる社会的責任を持ったプログラマーでも、自由な言論を検閲、禁止する政府の計画に協力したり手助けすべきではありません。さらには、肯定的であれ否定的であれ、宗教団体に特別な地位を与えるなんてことも。そしてさらには、電子ネットワークや他のあらゆる媒介を通して平和的に集う人々の権利に干渉するなんてことも。

修正第二条を心に留めるなら、いかなる社会的責任を持ったプログラマーでも、銃器の規制、許可制、禁止、押収につながるいかなる政府の計画を手助けするのに自らの技術を使うべきではありません。

修正第四条を心に留めるなら、いかなる社会的責任を持ったプログラマーでも、 暗号鍵照会機構(キーエスクロウ)や国家的な身元確認データベースを通じて、プライバシーを正しいところから政府公認の特権階級に移し替えようとする試みを含む、自国の監視となるいかなる計画にも手助けすべきではありません。

修正第九、十条を心に留めるなら、いかなる社会的責任を持ったプログラマーでも、自らの仕事が、連邦政府が憲法の下で明らかに認められていない権力を主張し、その結果合衆国と人民が制限を受けることに手助けするのを容認すべきではありません。

我々は、政治家から我々の自由を守るのをやめることはできません。つまり、連中は票田となりうる圧力団体の名において自由のかけらを削り取ることで栄えるものだからです。単に自由の侵食に対し受動的に抵抗するのではなく、積極的に自由を促進、拡大させること、すなわち私有の領域を拡大し、個人や自発的な集団が平和的に宿命を成し遂げるために政府から権力を奪うことが、あらゆる市民の義務であって、あらゆる社会的責任を持ったプログラマーの義務でもあるのです。

合衆国の建国の祖達は、我々に投票(ballot)と銃弾(bullet)でもって社会的責任を行使するように期待しました。それは投票の自由と、もし投票が機能しないなら、市民が武器を取る権利を守ることです。今日、より遍在するようになったコンピュータ環境とネットワーキングの世界において、我々は同じ目的に向かって、コンピュータのキーボードを使うことができるのです。

それを目指して進みましょう!


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初出公開: 1999年10月06日、 最終更新日: 2001年07月01日
著者: Eric S. Raymond
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)
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