スタートアップハブのダーウィン的進化

著者: Fred Wilson

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Fred Wilson による The Darwinian Evolution of Startup Hubs の日本語訳である。


今週末は Internet Week(ロンドン旅行のためほとんど参加し損ねた)と Disrupt NYC(今週断続的に参加するつもり)がニューヨークである。スタートアップハブとしてのニューヨークの進化は、私にとって非常に気がかりなことだ。そこでスタートアップハブの進化について書こうと考えた。

この理論は、私はスタートアップハブのダーウィン的進化と呼んでいるが、別に目新しいものではないし、私が考え出したものではないのは確かだ。けれど、皆に理解してもらうのが重要だから、ブログを書く次第である。

シリコンバレーを研究すると、木が高く育ち、その種が落ちて新しい木が生え、やがて古い木は成熟して成長を止めるか、悪ければ病気や腐敗で死にいたるが、新しい木が古い木よりずっと高く強く育つ森のようなものが見えてくる。

私が抱くシリコンバレーのメンタルモデルにおいて、最初の「木」は Fairchild Semiconductor(1957年創業)で、それが Intel(1968年創業)を生み、それが Apple(1976年)と Oracle(1977年)を生み、それが Sun(1982年)や Silicon Graphics(1981年)や Cisco(1984年)を生み、それが Siebel(1993年)や Netscape(1994年)を生み、それが Yahoo!(1995年)や eBay(1995年)を生み、それが Google(1998年)や Paypal(1998年)を生み、それが YouTube(2005年)や Facebook(2004年)や LinkedIn(2003年)を生み、それが Twitter(2006年)や Zynga(2007年)を生み、それが Square(2010年)や Dropbox(2008年)など多くを生むこととなった。

このメンタルモデルに重要な基礎をなす会社が抜けていたら、どうかお許しいただきたい。包括的な年表のつもりはないので。この進化論的シナリオがどのように時を越えて繰り返しているかを例証したかったのだ。

少し深く掘り下げると、創業者、投資家、そして初期の従業員がこれらの大成功により途方もない富を生み出しているのが分かる。後から入った従業員は初期の従業員と同じくらいの富とはいかないが、彼らも多くを学び、他の人の下で働く必要がないくらい十分なお金を稼ぐので、独立して彼ら以前にスタートアップで大金を掴んだ仲間に資金援助してもらうことが多い。それこそが種が木から落ち、新しい木が育つ様である。これが何度も何度も何度も続くのだ。

そうしたシリコンバレーの歴史を見れば、(Intel の創業以来)40年間の歴史の中で、企業の成熟と新しい企業の創業のサイクルが10回近く繰り返されていること、そしてそのサイクルは短くなっており、各サイクルで創業した重要な基礎をなす会社の数が増えているのがお分かりだろう。

このダーウィン的進化モデルは非線形なので、それは至極当然のことである。ある企業が二つの企業を生み、その二つが四つの企業を生み、と続くわけだ。もちろん、技術的変化、金融市場のサイクル、才能の供給とコストなどの外因的な要素もあり、それもスタートアップハブ経済の発展速度に影響する。

スタートアップハブのダーウィン的進化モデルはシリコンバレーに限定されない。我々はそれが他の場所でも展開するのを見てきた。最も顕著なのはボストンだが、ニューヨークもますますそうなっている。コロラド州ボールダーやテキサス州オースティンやアメリカの他の地域や世界中の多くの地域の市場でも展開しているところだ。

スタートアップハブに目を向ける際、私はその市場における「Fairchild Semiconductor」がどの会社か、またそれがいつ創業したかを知りたくなる。それを知れば、スタートアップハブの進化サイクルがどのように進んでいるか分かるからだ。ニューヨークでは、それは1996年に創業した Doubleclick になる。これは私が最初のベンチャー投資会社 Flatiron Partners を、インターネットはビッグになるというのとニューヨークはインターネット革新の重要な場所になるという二つの前提に基づいて創業したのと同じ年だ。我々は(残念なことに)Doubleclick に投資しなかったが、90年代後半にニューヨークの多くの興味深いインターネットに投資した。

よって、ニューヨークのスタートアップのエコシステムは現在まで16年続いていることになる。そして我々は二巡目にいる。ニューヨークで今現在創業され資金を受けている企業は、シリコンバレーの Apple/Oracle の段階に似ている。それを押し進めたければ、これから三巡目に入り、資金を受ける企業が Sun/Silicon Graphics/Cisco 期に似たものになると言えるだろう。

しかし何にせよ、ニューヨークの技術セクターは、繁殖力の点でシリコンバレーとは開きがある。現在のシリコンバレーの地点に来るには25〜30年くらいかかることになる。そしてシリコンバレーはさらにもっと先に進むだろう。

そうでなければ、もちろん別の話になる。

デジタル革命に先立つ技術革命が車と飛行機だった。それらはそれぞれ19世紀後半と20世紀初期に発明され、最初の営利企業のスタートアップが20世紀の最初の10年に誕生している。自動車/飛行機革命は1960年代/1970年代まで続いた。それは、技術革命はおよそ75年続くことを示唆している。

トランジスタが1940年代後半に発明され、1958年までにその技術に取り組む営利企業のスタートアップが生まれた。つまりこの革命がこれまでと同じなら、次の大物はもうそろそろ発明されることになり、10〜20年以内に我々はその次の技術革命を体験することになる。

またその場合、白紙に戻ることになる。シリコンバレーは次のデトロイトになるかもしれないし、どこが次のシリコンバレーになるかは誰にも分からない。

当然ながら、これはすべて推測である。歴史はそのままは繰り返さず、韻を踏む。これはサミュエル・クレメンス(またの名をマーク・トウェイン)の言葉である。私のお気に入りの一人だ。


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初出公開: 2012年05月28日、 最終更新日: 2012年05月28日
著者: Fred Wilson
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)

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