ニュース向けマイクロペイメントは聖杯? それともただの危険な妄想?

著者: Mathew Ingram

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Mathew Ingram による Micropayments for news: The holy grail or just a dangerous delusion? の日本語訳である。


マイクロペイメントが新聞産業(下手するとメディア産業全般)の苦悩への処方箋になるという信仰のバブルを Clay ShirkyMike Masnick といった人たちが何度潰そうとしても、安全で伸張性のあるマイクロペイメントシステムが解決策の重要な部分になると主張する信奉者が後を絶たない。最も最近にそれを切々と訴えたのは、ナイト財団に資金提供をしてもらっている「コミュニティ主導のニュースアグリゲータ」である NewsCloud の共同創業者である Jeff Reifman だ。

最近のブログ投稿で Reifman は、マイクロペイメントが新聞産業の問題を解決しうると信じる理由の要点を述べている。彼の投稿は Editor & Publisher の Steve Outing の投稿への応答である。その文章は「おたくらのニュースコンテンツはデジタル消費者には価値ゼロよ(Your News Content Is Worth Zero To Digital Consumers)」といういくらか論争的なタイトルで、ニュースの対価として人々に課金するのは、そのニュースが特定のニッチに狙いが絞り込まれたものでない限りうまくはいかないと主張するものだった(Google の CEO である Eric Schmidt が、ウォールストリートジャーナルが課金可能である理由として最近同様の主張をしたし、Paul Graham もまたその点について同じことを言っている(訳注:日本語訳))。

ニュースに対するマイクロペイメントについて書かれた文章をいくつか読み返したいなら、2003年の Clay Shirky のエッセイから始めるのがよい――何と言っても、そうしたシステムを作ろうとして悲惨な失敗に終わった試みを半ダースかそこらリストアップしてるところがよい(Steve Brill よ、聞いてるかい?)。少し前に書かれた Freakonomics ブログにおける優れたまとめもまた読む価値がある。

Reifman は、iTunes、テキストメッセージ、TiVo、そしてブロードバンドインターネットといったサービスに対する支払いモデルで成功したものをいくつか挙げて自身のアプローチを弁護する。まず私の目についたのは、その4つのうち3つ――iTunes、テキストメッセージ、ブロードバンドインターネット――は、独占(テキストメッセージとブロードバンドインターネットの場合は売手寡占ないしカルテルか)に近い状態に向かった結果であることだ。Apple は、すべてのメジャーレコードレーベルから提供される楽曲へのアクセスを押さえているから音楽に課金できるのだ。電話会社やケーブル会社は、真の競争相手がほとんど、あるいはまったくいないからテキストメッセージやインターネット接続に不当に高い価格を課すことができるのだ。それのどこが新聞に当てはまるというんだ?

Freakonomics ブログへのコメントで、Clay Shirky は「小額課金が出版社を救うというファンタジーは(中略)実は価格決定力の独占がユーザ越しに再確立可能であるというファンタジーなのだ」と語っている。私はそれがかなり本当のところだと思う。新聞はこの100年ぐらいマスパブリシングのツール並びにその流通手段の両方を束縛してきたが、この10年に新聞に起こったことの多くは、新聞がそれら両方を縛る力を失った結果である。最高のマイクロペイメントシステムですら人工的な希少性や支配のシステムを再形成していないのは悲しい現実だ――しかもマイクロペイメントは、個々の記事が収入を生み出すよう圧力がかかることで、ジャーナリズム全般にも悪い影響がある可能性があると論じる人もいる

これは、新聞はまったくお金を稼げないということなのだろうか? そんなことはない。Mike Masnick は、たとえメディアビジネスがコンテンツを無料で提供するとしてもお金を稼げる方法を指摘する優れた仕事を行なっていると思う――彼の会社である Techdirt はそれを実行しているし、多くのミュージシャンやアーティストも同様だ。また彼らは、そのビジネスにおいて人工的な希少性ではなく*真の*希少性を持つ面を宣伝するために無料コンテンツを活用することでそれを行なっている。音楽でいえば、個人向けアクセス、便利さ、より高品質といったものがこれに含まれる。それはジャーナリズムにどんな意味があるだろう? 様々なプラットフォームへの課金、ニュース速報への課金、特定のプレミアムなり付加価値のあるコンテンツに特別な「会員制」アクセスへの課金になるかもしれない。しかし、私は一つ自信を持って言える:たとえどんなにプロセスを洗練させようが、ニュース記事を読むのにほんの1セント課金するようなものにはならない。


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初出公開: 2009年09月24日、 最終更新日: 2009年09月24日
著者: Mathew Ingram
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)

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