クラウドでLinuxディストリビューションにあたるものは何になるだろう?

著者: Ian Murdock

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Ian Murdock による What will be the cloud equivalent of the Linux distro? の日本語訳である。


ここしばらく、現在クラウドコンピューティングと呼ばれるものの展開を、大きな関心を持って追い続けている。何年もクラウドコンピューティングにはいろんな名前がつけられてきた:ASP、グリッドコンピューティング、ユーティリティコンピューティング、ウェブサービス、SOA、マッシュアップ、SaaS、Web 2.0。いろんな意味で、クラウドコンピューティングの出現は、こうしたトレンドやテクノロジーの大きな一体化と言える。しかし、業界がそれにどんな名前をあてはめようが、私はこの大きな一体化を、ティム・オライリー(Tim O'Reilly)が2002年に言った、インターネット・オペレーティング・システム(the Internet operating system)のことだと考えている。

ティム曰く:

次第に我々はウェブサービスの荒野が変わるのを目の当たりにするだろう。開拓段階である第一段階は、スクリーンスクレイピングやバックエンドがデータベースのウェブサイトへの「無許可の」専用インターフェースを特徴とする。第二段階になると、ウェブサイト自身がより効率的で、XML ベースの API を提供するようになる(今これが起こり始めている)。第三段階になると、単一のベンダ(あるいは少数の競合ベンダ)が、インターネットをプログラム呼び出し可能なコンポーネントの膨大なコレクションに変え、それらのコンポーネントを、非技術系の人たちに毎日利用されるアプリケーションに統合する包括的な一連の API を提供することで、個々のサービスの寄せ集めが実際のオペレーティングシステムのレイヤーに統合されることになる。

このエッセイ――と「インターネット・オペレーティング・システム」というフレーズ――は、Google やティムが取り上げる他の企業に対する私の考えを大きく変えた。それらの企業は、もはや単なるブラウザでアクセスできるサービスの提供者ではなく、中には API を用意し始めているところもあった。彼らは未来のプラットフォームを一つずつ――大抵の場合意図せず――共同で構築していたのだ。初めて私は、自分がよく理解できるコンテキストでそのプラットフォームについて考えることができた。

最近になってクラウドの展開を見続けるにつれ、このオペレーティングシステムのアナロジーはあるいはさらにもっと深いものなのではないかとふと思った。確かに、自分が特にこのハンマーについてよく知っているので、目にするものが釘に見えるところはたぶんあるだろう。それでも、クラウドを眺めて現在目にするものと、1993年に初めて Linux について調べたときに Linux コミュニティで目にしたものとの特筆すべき類似点があると思う。

一例を挙げると、ティムが指摘するように、インターネット・オペレーティング・システムは、一つの企業によって構築されるものではないし、また特定のマスタープランに従って築かれるものでもない。むしろそれは、独立したピースを組み立てる何千もの手による副産物であり、そのピースのそれぞれが、何らかの全般的な「プラットフォーム」というものについてはほとんど、あるいはまったく考えることなく特定の問題を解決している。ちょうど1993年がそうであったように、新しいプラットフォームは概して副作用として、しかもボトムアップで構築されるものである。

1993年だと、大部分を自分でビルドしなくてはならなかったので、新興の Linux プラットフォームを活用するには高度なスキル(と忍耐力)が欠かせなかった。実際に使いこなせるようになるまでには、ソースコードをダウンロードし、コンパイルし、インストールして、すべてを連携させなくてはならなかった。Linux ディストリビューションが作られてはじめて、Linux とそれに伴うオープンソースは大衆が利用しやすいものとなり、コンピュータ業界を――そしてそう、世界を――根本的に変え始めたのだ。

次に現れ、Linux ディストリビューションのとき同じようにクラウドのピースを凝集したプラットフォームに縫い合わせるのは誰だろう? ティムが予測するように、XML フィードの「マッシュアップ」の仕方や、最新のイノベーションを活用すべくブラウザや iPhone に手を加える方法を知らない人たちのためにうまくパッケージ化することで、この寄せ集めを真のインターネット・オペレーティング・システムに統合するのは誰だろう? そうなると、たくさんのいろいろな用途に使えるようにこれらのピースを組み合わせるように何千もの手により管理されているすべての独立したピースを組み上げる技術であるクラウド向けのパッケージ管理にあたるものは何になるのだろうか? 多分もっとも重要なことだが、そのプラットフォームが一つのサイロ(か少数のサイロ)になるだろうか、あるいはどこに住んでいても開発者やユーザがサービスを結合できるオープンなものになるだろうか?

ティムのエッセイを読み直すと、我々がまだ第三段階に到達していないのは明らかであるが、その寸前まで来ていると思う。見ていて面白い――そしてその一部になるのは刺激的である。


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初出公開: 2009年03月23日、 最終更新日: 2009年03月23日
著者: Ian Murdock
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)

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