これからの四年間における私の優先事項

著者: Bruce Schneier

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Bruce Schneier による My Priorities for the Next Four Years の日本語訳である。

本翻訳文書については、Shiro Kawai さんに誤訳の訂正を頂きました。ありがとうございました。


多くの人たちと同じく、私もドナルド・トランプが大統領に選ばれたことに驚いたし、ショックを受けた。彼の理念、激しい気性、政治経験のなさは、我々の国、しいては世界にとって深刻な脅威になると私は思う。突如として、自分が取り組もうと計画していたことがすべて、それと比較するとちっぽけなものに思えてきた。インターネットのセキュリティやプライバシーが、危機に晒されている最も重要な政策分野というわけではないが、彼――と何より、彼の内閣、政権、合衆国議会――は、アメリカ並びに世界中の両方で、その分野に破壊的な影響を及ぼすからだ。

選挙があまりに接戦だったので、その結果がひどいさいころの目に思えてくる。あれこれいくつかちょっとした微調整があれば――サンダース支持がより熱狂的で、ジェームス・コメイの声明が一つ少なくて、ロシアの関与がちょっと少なければ――この国は、クリントン大統領の準備をしながら、まったく違った社会的物語を議論をしていただろう。その場合におけるストーリーは、例によってビジネスを重視し、我々の社会における根深い社会的な問題を曖昧にし続ける。そうした問題が自然となくなることはないし、この平行未来において、問題は水面下で悪化し続け、事態は着実に悪化するだろう。今回の選挙はそれらの問題を皆に見えるところにさらけ出したというわけだ。

私はこの一月を、この現実と折り合いをつけ、未来について考えることに費やした。これから先の四年間における私の新たな課題は以下の通りだ。

一つ目は、戦いを戦う。政府の監視も企業の監視も増すだろう。いくつかのラインで、議会や司法の場で戦いが起こると予想する。それは FBI の暗号へのバックドアの要求再びであったり、令状なしに政府のハッキングを行う余地であったり、制限なしの企業による監視であったり、その企業のデータへの内密な政府の要求の増加である。他の国も我々の先例に倣うだろう(英国は既に、我々よりもより極端だったりする)。そして、もしトランプ政権下で大規模なテロリストの攻撃が発生すれば、我々の自由は批判にさらされるだろう。我々はこれらの戦いの多くで負けるかもしれないが、それを可能な限り少なくし、既にある自由の犠牲をできるだけ小さくする必要がある。

二つ目は、そうした戦いに備える。これからの四年間は多分に反動的だろうが、我々もいくらか準備ができる。監視データの保存アーカイブを削除し、必要なときに必要なだけ保存するようにアメリカの経済界を説得できれば、我々は皆より安全になる。我々は、Google や Facebook といったインターネットの巨人に、そのビジネスモデルを監視資本主義(surveillance capitalism)から変えるよう説得する必要がある。それは実現困難な提案ではあるが、もしかすると一端に取り組めるかもしれない。同様に、プライバシーとセキュリティは相反せず、むしろお互いがお互いにとって欠かせないものであるという自明の理を説得し続ける必要がある。

三つ目は、より良い未来の土台作りをする。これからの四年間がどれだけひどくとも、トランプ政権がアメリカにおけるプライバシー、自由、権利を永久に終わらせることはないと私は信じている。トランプ政権が我々の民主主義の根本的な変化の前兆とは思わない(さもなくば、我々には自由で安全なインターネットよりも大きな問題があることになる)。トランプ政権における政策変更の中には、元に戻すのに何十年もかかるものがあるのは確かだ。たとえそうでも、アメリカは最終的には元に戻ると私は自信を持っている――し、楽観的ですらある。そしてそのときが来たら、人々が取りかかる優れたアイデアが適所に必要となる。これは、監視を基盤としないインターネットのビジネスモデルの提案、プライバシーを保護する効果的な法執行の研究、企業が我々のデータをどのように収集し、利用できるかについての理にかなった制限などのことだ。

そして四つ目は、現実の問題を解決し続ける。我々がトランプの行き過ぎた行為と戦うのに忙しかろうと、サイバー犯罪、サイバースパイ、サイバー戦争、モノのインターネット、アルゴリズムに従う意思決定、我々の選挙への外国の干渉などをめぐる深刻なセキュリティ問題は、四年の間消えてくれるものではないのだ。より安全なデジタルの未来に向け、我々は引き続き努力する必要がある。そして、我々の軍事ネットワークや重要なインフラのサイバーセキュリティが、皆にとってのサイバーセキュリティと調和する限りは、我々はたぶんトランプと協力し合うことになる。

以上が、私が取り組む四つの分野になる。クリントン政権下でも、私のリストはほぼ同じになっただろう。トランプが勝ったことで、脅威はより深刻になり、戦いはずっと勝つのが難しくなる。それは私が一人でなしえる以上のことであり、それゆえに私は、これらの分野の仕事に取り組み続ける EPIC(電子プライバシー情報センター)、EFF(電子フロンティア財団)、ACLU(アメリカ自由人権協会)、Access Now といった組織を支援するために寄付する年間額を大幅に増やしている。

私の課題は必然的に、自分が特に心配する分野に完全に集中している。トランプが大統領になるリスク自体のほうがずっと致命的ではあるが、この分野こそ私が専門知識と影響力を有する領域なのだから。

現時点では、我々は戦いに敗れた多数派である。恐怖を感じている人も多いが、やる気を見せている人も多い――が、そのモチベーションを建設的な方向に向けている人となるとわずかだ。我々は、問題がより悪化し、解決策がさらに極端になるであろう四年後や八年後まで待つのではなく、その恐れやエネルギーを社会を今正し始めるのに利用する必要がある。私としては、問題が天然痘ではなく牛痘であると想定して前進することを選びたい。つまり、今日良性疾患と戦うのは、未来にそれがより有毒になった形で晒されるよりもずっと簡単ということだ。これからの四年間強度を維持するのは難しいだろうが、我々は仕事に着手する必要がある。トランプの勝利を警鐘やチャンスとして利用しようではないか。


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初出公開: 2016年12月22日、 最終更新日: 2016年12月23日
著者: Bruce Schneier
日本語訳: yomoyomo(ymgrtq at yamdas dot org)