著者: Edward W. Felten
日本語訳: yomoyomo
以下の文章は、Edward W. Felten による A Land Without Music の日本語訳である。
最近匿名の情報源から聞いた話をしよう。情報源の身元と話の詳細の一部から判断するに、私はこの話が本当のことだと思う。情報源をまもるため、以下一部詳細は省いている。
大規模なマルチプレイヤー型バーチャルワールドを運営するある有名企業が、そのバーチャルワールドに新しいスペースを追加することを検討していた。そのスペースの性質上、キャラクターはおそらく音楽を作ろうとする。そこでプログラマは仮想の楽器一式、そしてプレイヤーが独自の楽器を作る道具を作成した。計画では、現実世界で人々が音楽を作るのと同じ理屈でプレイヤーが仮想の楽器を手に入れ、音楽を作るというものだった。
しかし、経営陣は弁護士から受けたアドバイスに従い、そのアイデアを拒絶した。著作権侵害のおそれがあるというのがその理由だった。問題は、プレイヤーが仮想楽器で著作権のある曲を演奏するかもしれず、そしてそれを防げないとゲーム会社が寄与過失を問われたり、プレイヤーの身代わりとして著作権侵害で訴えられる可能性があることだった。
このことについて少し立ち止まって考えていただきたい。仮想世界には、多種多様な武器を含む、あらゆる仮想物が存在する。でも、サックスは? 危険すぎるというわけだ。思うに経営陣は著作権のない曲しか演奏できない魔法のサックスならば歓迎したのだろうが、技術者はそんなものが作れるとは考えなかった。
この文脈にあてはめると、プログラム可能な仮想の道具が現実世界で広く売られ、利用されていることを思い出していただきたい。それはシンセサイザーと呼ばれるもので、著作権の有無に関わらず、どんな音のシーケンスでも演奏できるコンピュータそのものである。現実世界のシンセサイザーとゲームの世界の道具の間に、合法と違法とを分ける理に適った一線を引くのは容易なことではない。
おそらくその会社は過度に神経質になっていたのであり、訴訟リスクは実体のないものだった。しかし、本当にそうだろうか。これが我々が見てきたなかで最も強引な著作権訴訟というわけではまずないからだ。