Cisco IOS vs. 私が思い描くインターネット OS

著者: Tim O'Reilly

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Tim O'Reilly による Cisco's IOS vs. my vision of an Internet Operating System の日本語訳である。


Robbie Allen から以下のメールをいただいた。彼の許可を得て引用させてもらう。

あなたの最近の「インターネットOS」に関する記事の多くを読ませてもらっています。私がそれに関連するアイデアをいくつか考え始めたのは90年代後半でした。私は Cisco の IT 部門に勤務し、各種サービス(DNS、DHCP、LDAP など)を運用しながら、それらを管理するウェブベースのアプリを(主に Perl で)書いていました。Cisco では、あらゆるものをウェブにのっけたがります。私はある時点で、ウェブブラウザさえインストールすれば、後は直感的な URL を指定することでアプリケーションにアクセスできると考えるようになりました。つまり、企業のディレクトリにアクセスするなら http://directory、DNS 管理アプリにアクセスするなら http://dns、メーリングリスト・アプリケーションにアクセスするなら http://mailer、ソフトウェアをインストールするなら http://software という具合です。お分かりいただけるでしょう。

この場合、ブラウザが、あらゆるネットワークアプリケーションのインタフェースの役割を果たします。ブラウザのブックマークは、Windows の[スタート]→[プログラム]と同じ機能を果たすでしょう。スタンドアローンの(ブラウザベースでない)GUI を書く必要性は、特に従来のクライアントサイドのアプリの開発が進み、XML を利用し始め、ブラウザのレンダリング能力が向上するにつれて、やがて徐々に減っていくでしょう。これは既に、MS Office アプリケーションの分野で起こりつつあります。Outlook 2003 であれば、Outlook Web Access 2003 とほぼ同じ使い勝手になっています。

追伸:「インターネットOS」という言葉が、あなたの考えを伝えるのに都合が良いことは認めますが、本気でその言葉を伝道し始めると、Cisco(私の雇用者)がその言葉を使っていますので、抗議を受けることになるかもしれません。またあなたが語っているのは、実際には OS ではないので(ブラウザが OS になるまでは)、おそらく「インターネット・アプリケーション・システム」とか「インターネット・アプリケーション・プラットフォーム」のほうがより適切ではありませんか? これはほんの思いつきですが。

Robbie のコメントは全く正しいと思う。ウェブと、あと特に URL に関連付けられる暗黙の、もしくは系統立った命名規則があれば、単なるウェブページにとどまらない統一的なサービスを提供できる(これは、さかのぼること1997年に、Netscape が「webtop」として伝道していたことでもある)。私はまた、デスクトップ・アプリケーションのウェブ版が、ますます元のアプリそっくりになりつつあるというのもその通りだと思う。その上、Flash のようなクライアントサイドの技術が、ブラウザで完結するアプリケーションよりもずっと応答性の良いインタフェースを持つ、Macromedia が Rich Internet Applications と呼ぶものを可能にするわけだ。

しかし、それは氷山の一角に過ぎない。私が「インターネットOS」という言葉を使う本当の理由は(例えば私のアーカイブサイトを参照いただきたいのだが)、ウェブと従来のデスクトップ・アプリケーションの双方に勝る新しいネットワークベースのサービスを、我々が目の当たりにしつつあるからだ。P2P ファイル共有、分散コンピューティング、位置サービス、検索、身元管理……リストは延々と続く。サービスとデバイスへのアクセスを管理するソフトウェア層が OS でなければ、何が OS だろう。Cisco がその言葉をトレードマークにしようとしてきたのは気の毒に思うが、それは単に表記の問題に過ぎない。Cisco IOS は、完結したインターネット OS というよりは、実際には BIOS 層に近いものである。

更に重要なのは、私が話題にしているのは確かに「インターネット・アプリケーション・プラットフォーム」――つまり、純粋にインターネットをベースとするアプリケーションのためのプラットフォーム――のことではあるのだが、同時にそのサービス一式は、従来のアプリケーションにも提供されることだ。O'Reilly Mac OS X カンファレンスの基調講演で述べたように、iTunes はその新しいパラダイムの好例である。iTunes は、ユーザがローカルに格納するデータを管理するのに役立つが、そこにいかにたくさんのアウトリーチがネットワーク機能の中に含まれるか見てみよう。

私は、「単一デバイスより上位レベルに位置するソフトウェア」という David Stutz のフレーズが大好きだ。現在は、皆この種のソフトウェアを単体のソフトウェアとして書いている。真のパラダイムシフトは、開発者がサービスのあり様を確実に想定できるくらいサービスが十分に標準化されれば起こるに違いない。私が論じたいのは、このプラットフォームが、単一のベンダによりつくられた既製服ではなく、Linux のディストリビューションが合流するような意味で、複数のソースから融合可能であることである。しかし、私は確実にそうなるとは思わない。実際、今日企業向けソフトウェアベンダにとって最大にしてたった一つの戦略上重要な問題は、誰がこの新しいプラットフォームを支配するのかということである――それが単一のレイヤを提供する機会をつかむ単一のベンダであるか、さもなくばオープンな規格に基づくインターネットスタイルのシステムであるかにかかわらず。


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初出公開: 2004年01月30日、 最終更新日: 2010年04月04日
著者: Tim O'Reilly
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)
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