我々が失ったウェブ

著者: Anil Dash

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Anil Dash による The Web We Lost の日本語訳である。


ハイテク業界やマスコミは、10億人規模のソーシャルネットワークや遍在するスマートフォンアプリの隆盛を普通の人たちの純粋な勝利、使いやすさと権利拡大の勝利のように扱ってきた。この変化の過程で我々が失ってしまったものが話題になることは稀だし、お若い方だとかつてウェブがどんなだったかご存知すらないかもしれないのは私も承知している。

そこで今では大方消えてしまったかつてのウェブを以下に紹介させてもらう。

理論上は、何十万ものウェブログのソースコードを調べ、ウェブログ間のリンクのデータベースを作成するソフトウェアをあなたが書けたのだ。そのソフトウェアが十分に賢ければ、数時間毎に情報をリフレッシュし、ほぼリアルタイムにデータベースに新しいリンクを追加できる。これこそ Dave Sifry が、素晴らしい Technorati で作ったものそのものである。これを書いている時点で、Technorati は37万5千をこえるウェブログを監視し、3800万をこえるリンクを追跡してきた。Technorati を試してないなら、大事なものを見逃していることになる。

これは今日の我々のウェブではない。我々はかつて頼りにしていた重要な特徴を失ってしまったし、さらに悪いことに、我々はウェブの世界に欠かせなかった本質的価値を放棄してしまっている。今日のソーシャルネットワークは、そのネットワークに何億人もの新たな参加者を呼び込み、そして確かにそれが少数の人たちを金持ちにしている。

しかし、彼らはウェブそのものに対して敬意を払い、自分たちの成功を可能にしたメディアであるインターネットにしかるべき配慮を見せたことがない。しかも彼らは今、ずっと革新的で意義ある経験が可能なことを分かっていないある世代の全ユーザにとってのウェブの可能性を狭めている。

未来に戻る(Back To The Future)

今日面白いデータマッシュアップの多くは Flickr の写真を使っているが、これは Instagram が提供する貧弱なメタデータがクソで、しかもそのアプリは嫌々ながらでしかウェブに対応してないからだ。古いツイートや自分と関係あるコンテンツであっても Facebook を検索できないことについては言い訳を聞くが、当時の貧弱なソフトウェアプラットフォーム上のぎこちない Technorati の検索のほうがずっと包括的な結果が得られたものだ。大企業はユーザの役に立つであろう形で協力しようとせず、その利益追求のために Tumblr が Twitter のフレンドを探せないとか、Facebook が Instagram に Twitter 上で写真を表示させないとかクソな縄張り争いに我々は巻き込まれている。しかも、多くの人たちにウェブそのものの上に革新的な新しいチャンスを生み出させるのでなく、少数の富める者たちが更により富み続けるために、こうしたさらにケツの穴の小さい、ウェブを敵視する製品を作ることを推奨する多くの起業家がいる。

我々はこうしたことを正さなければならない。ただ私はそれを心配してはいない。すべての業界同様、ハイテク業界もサイクルに従っており、振り子は初期のソーシャルウェブを支えた広範に力を与える理念に揺り戻しつつある。しかし、我々はウェブがどんなものか十億もの人たちに再教育する大きな課題に直面しているのであって、それはインターネット体験とは皆が知るものよりもずっと豊かなものであることを教え、十年前に皆が AOL を捨て去るまで年月を費やしたのに似ている。

これは「ああいう愚かしい囲い込まれたネットワークは悪だ!」といういくらかありふれた論争ではない。私も Facebook や Twitter や Pinterest や LinkedIn などが偉大なサイトであることは承知しているし、彼らはユーザに多大な価値提供を行っている。純粋にソフトウェアの観点から見れば、彼らは素晴らしい成果なのだ。しかし、彼らは必ずしも正しくないいくつかの前提を土台としている。彼らの過ちの多くの根底にある第一の誤謬は、ユーザに柔軟性を与えると、成長を阻害するユーザ体験の複雑さに必ずつながると考えているところだ。そして二番目のより重大な誤謬は、ユーザを極度に管理することこそ、そのネットワークの収益性と持続可能性を最大化する最良の方法と考えているところだ。

この考え方を捨てさせる第一歩は、少しは歴史を学び、自分たちのクソな状況を理解し、その原因が Twitter のビジネスモデルなのか、それとも Google のソーシャル機能なのか、あるいは何か他のものなのか理解する次世代のソーシャルアプリケーションを生み出す人たちにかかっている。我々は何が挑戦されて失敗したか、どんな優れたアイデアが時代を先んじてしまったか、そして現在全盛のソーシャルネットワークの現世代においてどんなチャンスが失われてしまったか知らなくてはならない。

で、私は何を見逃したのだろう? ソーシャルウェブで我々は他に何を失ったのだろう?

補足記事:いかにして我々は失ったウェブを再構築するか


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初出公開: 2013年01月07日、 最終更新日: 2013年01月07日
著者: Anil Dash
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)

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