GPLとサービスとしてのソフトウェア

著者: Tim O'Reilly

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Tim O'Reilly による The GPL and Software as a Service の日本語訳である。


Linux Magazine の The GPL Has No (Networked) Future(GPL には(ネットワーク的な)未来がない)という記事は、私が何年も主張し続けている論点を認めるものだ。それはフリーソフトウェアのライセンスがソースコードの公開を求めるのは配布という行為がすべての契機となるが、ウェブアプリケーションは実際に「配布」されることがないので、フリーソフトウェアのライセンスに縛られないということである(例えば、1999年にベルリンで開かれた Wizards of OS conference で Richard Stallman と交わした議論を参照いただきたい(訳注:日本語訳))。

記事には、GPL v3 策定の議論の過程で、Affero General Public License(AGPL)の条項の一部を入れることで「Saas の抜け道(SaaS loophole)」を塞ごうとする動きがあったことが書かれている。

FSF は Affero GPL の成立を支援し、それを GPL3 の初期ドラフトに統合しようとした。しかし、その目論見は裏目に出てしまい、FSF は GPL をサービスとして提供されるソフトウェアに拡張しようとする文章を削除するだけに留まらず、「著作物を「伝達(convey)」する」というのが実際どういう意味か明確にすることともなった。

コンピュータネットワークを通じて、複製を転送することなくユーザとただやり取りをするのは伝達ではない。

言い換えれば、サービスとして提供されるソフトウェアは、今や正式に GPL の対象外なわけである。

(中略)コミュニティは、この最新ドラフトに付随する FSF の61ページもの原理説明を行う文書[pdf]に示された条項を推し進めた。

我々は、コミュニティのいろいろな人たちから寄せられた矛盾する見解に直面しながらこの決定を行った。多くのフリーソフトウェアの商用ユーザは GPLv3 本体に強制的な Affero 的要件を含めることに反対していることは我々も承知していたが、第7項の有効性に反対されたのには驚いた。実用的な見地だけでなく倫理面について議論するフリーソフトウェア開発者がたくさんいる一方で、前述のユーザと同族であるフリーソフトウェアのベンダも反対の輪に加わった。

記事は、これは正しい決定であるが、GPL の長期的な重要性に本質的な制約を課すものであると結論付けている。「未来はネットワーク化されている。GPL はそうではない」

再来週ポートランドで開かれるオープンソースに関する O'Reilly Radar Executive Briefing で、我々は Eben Moglen と 特にこの決定にフォーカスして GPLv3 について、そして Web 2.0 アプリケーションとフリーソフトウェアのライセンスの全般的な問題について対話を行う予定である。

一方で、私もこの決定の正しさについては Linux Magazine に完全に同意する。ウェブを通じて提供されるアプリケーションは、あまりにも多くの人々にとって重要なので、今更その馬を納屋に連れ戻すことはできない。それをやっていたら、採用を不可能にし、GPLv3 にとって命取りになっただろう。また同時に、Web 2.0 界で解決されるべき重要なフリーソフトウェアの問題があると私は思う。O'Reilly Radar の裏チャンネルで、Nat Torkington が以下のように書いている。

僕は GPL の起源である Stallman のプリンタにまた立ち戻っている(訳注:Richard Stallman の伝記本『Free as in Freedom』の第一章「プリンタがなかったばっかりに」を参照のこと)。彼はお金を払ったソフトウェアを改良して使い続けることができないままではいたくなかった。サービスに対し同等の権限を行使する手段が未だ定義されていない。

我々は昨年のオープンソースのブリーフィングでオープンサービスとオープンデータについて話をした。これはオープンソースと Web 2.0 の両方で未だ解決されていない領域である。Web 2.0 に関して Richard Stallman を GPL に導いた自由を再発見するのが必要となるときがいつか来るだろうが、それが現在のフリーソフトウェアのライセンスから生まれるとは私は思わない。多分 Wesabe のオープンデータ権利章典のほうがよりそれに近いだろう。

あなた方はどのようにお考えだろうか。


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初出公開: 2007年07月17日、 最終更新日: 2007年07月18日
著者: Tim O'Reilly
日本語訳: yomoyomo(ymgrtq at yamdas dot org)
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