著者: Brewster Kahle
日本語訳: yomoyomo
以下の文章は、Brewster Kahle による書籍版『Walled Culture』の序文の日本語訳である。
不幸にも、インターネットはより民主的で開かれた出版システムという我々の夢から、ますます数少ない国際企業に支配されるものになりつつある。これらの企業はパブリッシャーでありながらテック企業でもあり、我々のテクノロジーの接続性を利用して、アナログ時代には不可能だった新たな支配力を行使している。何が起きているのか? そして正道に戻すために我々に何ができるのか?
我々の多くが、出版された人類の遺産にアクセスしたい好奇心のある人なら誰でも利用できる分権的な大図書館を築こうとキャリアを積んできた。しかもこの図書館は、皆に作品を共有する機会を与え、多くの人が生計を立てるのに十分な読者を得ることになるので、あらゆる声を包摂するものになる。新たなコンピュータやネットワークの技術が、皆が膨大な情報をより分ける助けとなるだろう。我々は前進してきたが、挫折もあった。
今ではインターネットが世界中のほとんどの人たちをつなぐが、国家はアクセスを妨害し始めている。サーバ技術はかつてはとても分散的だったが、少数の企業の「クラウドサービス」にますます集中しつつある。
しかし、もっとも警戒すべきなのは、インターネットの接続性を利用する多国籍企業のメディアコングロマリットによる前例のない支配の主張かもしれない。一部の出版社やテクノロジー企業は、デジタル出版物を販売するのでなく、ライセンスとデジタル権利管理技術の組み合わせによる長い触手を使って支配力を保ち続ける。これはつまり、図書館も個人もデジタル時代には本にしろ他の作品にしろ決して所有はできず、読むというイベントが一部の遠く離れた巨大企業によって許可されるイベントになるということだ。
企業が誰が何をいつどれくらい読めるか決められ、いつでも読めるものを変える未来は、ディストピア SF の話みたいに聞こえるかもしれないが、今現実に起こり始めている。本書は重要な時期――何が起こるかを我々がまだ変えられる時期――に刊行される。
本書が出版されること、しかもオープンに公開されることを私は非常に喜ばしく思う。本書は、我々が一部の組織のディストピア的衝動に反撃する強力な制度を築き、多くの勝者、多くの声、そして多くの祝福をもたらす情報のエコシステムを築く助けとなるだろう。
ブリュースター・ケール
2022年7月
サンフランシスコ