Creative Commonsの「ペイ・トゥ・クロール(Pay-to-Crawl)」に関する立場
著者: Creative Commons
日本語訳: yomoyomo
以下の文章は、Creative Commons による Where CC Stands on Pay-to-Crawl の日本語訳である。
以前にも論じた通り、大規模人工知能(AI)モデルの台頭は、ウェブコンテンツの機械利用を規定する社会契約を根本的に破壊してしまった。現在、機械は検索性を高めたり、新たな洞察を生み出す助けをするためにウェブにアクセスするだけでなく、我々が知るウェブを根本的に変える(そして脅かす)アルゴリズムに情報を食わせている。かつては概ね互恵的な生態系として機能していたものが、今ではデフォルトで搾取的なものになるリスクがある。
それに対し、創作者、パブリッシャー、コンテンツの管理者が作品の利用方法の主導権を取り戻すのを支援する新たなアプローチが浮上しつつある。
「ペイ・トゥ・クロール(Pay-to-Crawl)」がその一つとして注目を集め始めているアプローチである。「ペイ・トゥ・クロール」は、ウェブサイトで利用される新興の技術システムで、そこのデジタルコンテンツ――文章、画像、構造化データなど――が機械にアクセスされる際の補償を自動化するものである。我々は最近、この問題に特化した説明で「ペイ・トゥ・クロール」システムについての我々の解釈と見解を公開している。
CCの「ペイ・トゥ・クロール」に関する立場
責任をもって利用されれば、「ペイ・トゥ・クロール」は、ウェブサイトがコンテンツの作成や共有を持続させ、代替利用を管理する手段となりうる。これにより、共有されないか、そうでなくてもより制限的なペイウォールの奥に埋もれるコンテンツを公開アクセスできる状態に保てる。
しかしながら、我々には重大な懸念がある。
「ペイ・トゥ・クロール」は、独立系ウェブサイトが AI クローラーによってオフライン状態に追いやられるのを防ぎ、追加の収益を生むのにふさわしい方策になるかもしれない。しかしそれ以外では、pay-to-crawl システムが皮肉なことに、人間のアクセスを犠牲にし、原作者に必要な恩恵がないまま、権利保持者によって不当な利益を生むために悪用される可能性がある。
「ペイ・トゥ・クロール」システムそのものが、我々のウェブ体験を支配する力となり、新たな権力集中につながるかもしれないのだ。ウェブを共有やリミックスの手段から、厳重に監視されたコンテンツ配送経路に変え、デジタル著作権管理(DRM)の最悪のところにも似た形でコンテンツの利用を監視、操作できるのだ。
我々はまた、「ペイ・トゥ・クロール」システムが手あたり次第に利用されることで、研究者、非営利団体、文化遺産機関、教育者、その他の公益活動従事者のコンテンツアクセスを遮断しかねないのも懸念している。(EU における)非営利の研究や(米国における)フェアユースの免除といった著作権法の例外や制限、翻訳やアクセシビリティのツールに関する条件など、コンテンツアクセスの法的権利は、長年にわたって慎重に交渉、調整されてきた。粗雑で設計の拙い「ペイ・トゥ・クロール」システムが導入されれば、こうした権利が阻害されかねないのだ。
信頼できる「ペイ・トゥ・クロール」の原則の提言
「ペイ・トゥ・クロール」システムは中立的な基盤ではない。これらのシステムが、ただ知識や創造性の共有を妨げる障壁を生み出し、少数の者に益するのではなく、創作者とコモンズの利益にかなう形で構築、利用されることが極めて重要である。
我々は、この展望に整合する「ペイ・トゥ・クロール」システムの開発指針として、以下の一連の原則を提案する。
- 「ペイ・トゥ・クロール」はデフォルト設定になるべきではない。
「ペイ・トゥ・クロール」は、一部のウェブサイトで有効な戦略であって、すべてのウェブサイトが同じ根本的な課題を共有しているわけではない。「ペイ・トゥ・クロール」システムは、ドメインホスト、コンテンツ配信ネットワーク、その他のウェブサービス提供者など、第三者がウェブサイトに代わって自動ないし当然の設定として展開されるべきではない。
- 「ペイ・トゥ・クロール」システムは包括的なルールではなく、選択や微妙な調整を可能にすべきである。
「ペイ・トゥ・クロール」システムは、(モデル・トレーニング、検索インデックス作成、推論/検索など)機械利用の種類や目的だけでなく、さまざまな種類のコンテンツの利用者(AI 営利企業、非営利団体、研究者、特定の組織など)をウェブサイトが区別――し、可変的な制御を設定――可能にすべきである。システムは、翻訳をアクセシビリティサービスの制限を含め、人間が直接行う閲覧やコンテンツの利用に影響を与えるべきではない。
- 「ペイ・トゥ・クロール」システムは、ただブロックするだけでなくスロットリングを許容すべきである。
「ペイ・トゥ・クロール」システムは、ウェブサイトがコンテンツ全体を壁で守るのではなく、大量の機械によるトラフィックのコストなどの影響を管理できるようにすべきである。例えば、システムは、大規模 AI モデルによる「エージェンティック・ブラウジング」や「推論」に起因するトラフィックをウェブサイトが制限しながら、研究やアーカイブなど大幅に量が少ないトラフィックを含むそれ以外の種類の機械アクセスを許容できる。
- 「ペイ・トゥ・クロール」システムは公益となるアクセスや法的権利を保護すべきである。
「ペイ・トゥ・クロール」システムは、研究者、非営利団体、文化遺産機関、教育者、その他の公益活動従事者のコンテンツアクセスを妨げてはならない。これらのシステムは、著作権の例外、制限や公益のために認められたその他の法的権利によって保護されるコンテンツの合法的な利用を妨害すべきでもない。「ペイ・パー・クロール(pay-per-crawl)」システムに従わないという決定自体が、それ以外の合法的な利用を違法行為に変えるべきではない。
- 「ペイ・トゥ・クロール」システムはオープンで、相互運用可能で、標準化されたコンポーネントを利用すべきである。
「ペイ・トゥ・クロール」システムは、独占的なチョークポイントやゲートキーパーになるべきではない。我々は、特定の「ペイ・トゥ・クロール」システムにロックインされたウェブサイトにつながりかねない認証や支払いの独占的なコンポーネントの利用に特に警告するものである。
- 「ペイ・トゥ・クロール」システムはコモンズへの集合的な貢献を可能にすべきである。
単独のウェブサイトとコンテンツ利用者の間の金銭取引のみを可能にする「ペイ・トゥ・クロール」システムは、コンテンツの価値が細分化される、非常に取引中心の未来を生み出す恐れがある。「ペイ・トゥ・クロール」システムは、創作者とパブリッシャーの連合体への集合的な支払い形態、およびデジタルコモンズへの貢献がどういうものかの広範な理解を支援すべきである。
- 「ペイ・トゥ・クロール」システムは監視や DRM に類似したアーキテクチャを避けるべきである。
「ペイ・トゥ・クロール」システムは、コンテンツの利用に関する度を越えたロギング、フィンガープリンティング、行動トラッキングを導入すべきではない。システムは、コンテンツの流通経路を追跡したり、コンテンツがどう利用可能かを指図しようとするのではなく、利用者を認証し、支払いを行うのに必要なだけデータ収集を最小化すべきである。
進むべき道:未来が決められるところに参画する
我々は、今こそ相互関係、オープン性、コモンズを優先する価値観を持つ「ペイ・トゥ・クロール」システムに参加し、影響を与え、熱意を注ぐ時だと信じる。
我々は、ここに示した原則に関するフィードバックや対話を歓迎する。あなた方の意見が、我々の「ペイ・トゥ・クロール」システムや関連する新たな取り組みへの関与を導くとともに、より広範な CC コミュニティの理解を深める助けとなるだろう。
本投稿への Jack Hardinges の貢献に感謝する。
初出公開: 2026年01月05日、 最終更新日: 2026年01月05日
著者: Creative Commons
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)

この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。