我々は仲良くやってくこともできないのか?

著者: Miguel de Icaza

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Miguel de Icaza による Can't We All Just Get Along? [A Response to Dennis Powell] の日本語訳である。

Miguel de Icaza は、GNOME の主要開発者にして、Linux Fund から投資された資金を元に、本文中にも登場する Nat Friedman とともに Helix Code(現在は Ximian)を設立し、現在 CTO を務めている。1999年の FSF アワードも受賞している。

本文は、Dennis E. Powell が LinuxPlanet に投稿した文章に反論する形で、GNOME Foundation 設立後の企業参画に伴って出た、GNOME の独立性を巡る疑問に応えている。


GNOME コミュニティに属する友達や仲間の多くと同様、僕は Dennis Powell が GNOME について最近書いた文章(".comment: Wanna Invest in a Bridge...?")を読んでがっかりもしたし、うろたえもした。残念なことに、彼は GNOME コミュニティ全般、それも特に Ximian がやろうとしていることについて、ひどく間違った描写をしている。我々は、いたるところのデスクトップに、フリーソフトウェア/オープンソースをもたらすためにがんばっているんだ。それを成し遂げるために、Nat や僕は、最良のデスクトップ環境を手に入れる助けとなる事業をしっかり築き上げるために、GNOME を製作し、洗練させ、そのサポートを行う会社を設立したんだ。

我々がやろうとしていることや、どのようなやり方でやっているのかということについて疑問を持つ人のためにも、Dennis のコラムにあった GNOME と Ximian を巡る論点のいくつか、特に GNOME の支配、僕や他の企業の役割について、僕が解説してはっきりさせようと思う。

貢献すれども支配せず

誰であろうと、フリーソフトウェアのプロジェクトに影響力を与えることができる唯一の方法は、それに貢献することである。

GNOME に関わる企業や個人の数が多くなればなるほど、GNOME プラットフォームが享受する貢献も大きくなる。

GNOME コミュニティには、様々な利害関係が絡んでいる。つまり、その技術に関心のある人達もいれば、そのフリーさに関心のある人達もいるし、見た目に関心のある人達もいるだろうし、具体的なアプリケーションに関心のある人達だっている。でも、僕達は皆 GNOME をユーザと開発者にとっての最良のプラットフォームにするという願望を共有していて、ユーザベースと開発者ベースが拡大すれば、GNOME プラットフォームに対応するソフトウェアの数も多くなり、それが GNOME を利用する我々にとっての喜びに形を変えるんだ。

もちろん、これはすべてのフリーソフトウェアのプロジェクト一般に言えることだ。仲間が増えるほど、そのプロジェクトのコードベースも蓄積されていく、という。Ximian において、デスクトップ・システム上にフリーソフトウェアを広めることに、僕達は大きなビジネスチャンスを見込んでいる。従って、GNOME にしっかり貢献することが僕達にとっての重大事であり、それを僕達はやってきた。

ロール・プレイヤーズ

GNOME に貢献する様々な企業(Code Factory, Eazel, HP, Red Hat, Sun, SuSE, Ximian)が、異なる立場から、彼らが最も興味を持つ分野に貢献をしている。しかし、最近開かれたヨーロッパ GNOME 会議 (http://guadec.gnome.org) でも証明された通り、これらの企業は GNOME の開発者ベースの一部分に過ぎない。その会議において、企業に所属する人間よりも、「公式」企業に属しない開発者の数の方が多かったのだ。

GNOME を成功させるために、我々は皆力を合わせなければならないことを認識していて、自分達の専門分野や、直接的に関与する分野に焦点を合わせることでこれを実行している。

思いつく限り、GNOME に貢献する企業が行っている各種活動のリストを挙げておく:

GNOME の動作を説明するには、GUADEC(訳注:先に出た、ヨーロッパ GNOME 会議のこと)における GNOME 2 プラニング・セッションに、次世代 2.0 プラットフォームを導入するのに必要な各種ステップを議論する人間が150人いたことを思い出せばよい。

成功をなしとげる

Nat Friedman と僕は一年半前に Ximian をスタートしたけど、これまでに達成してきたことをとても誇りに思っている。50万人を優に越すユーザベースを集め、並外れた才能のある開発チームを形成し、そして将来の成長に必要な投資を集めた。

いかなる成長する事業もそうであるように、Nat や僕は、自分達の会社により多くの経営資源を追加し、次のレベルに移行できるようにした。僕達が予め計画しておいたことがいくつかあり、その通りにアシスタント、サポート・スタッフ、プログラマー、そしてウェブマスターを雇い、各々が専門分野で貢献している。こうすることで、Nat は製品戦略を作成し、その開発を管理する時間をもっと取れるようになったという副次的な恩恵があった。

利益を生む企業にする助けとなる豊富な知識をもたらし、フリーソフトウェアのこの業界における、ますます重要となる役割を大変明瞭に理解していたという理由で、僕達は David Patrick を雇った。これは言いかえれば、僕達が世界中のユーザのデスクトップ上で、フリーソフトウェア(オープンソース)を勝利させることを目指して貢献しつづけることができるようになるということだ。

David Patrick を新たな CEO としてうまく迎え入れたことに、僕達はとても興奮している。僕達はこれをとても、とてもポジティブなことだと考えている。僕達がとても才能があり、経験豊かな経営陣を得ることができたという事実は、オープンソース・デスクトップ市場にチャンスがある証しである。我々の希望としては、拡大した経営陣の助けを得て、Ximian が GNOME をこれまでよりもずっと広めていけると思っている。

ソースコードを巡る疑問

Ximian によって開発され、最近リリースされた Ximian GNOME 1.4 に含まれるソースコードはすべて、GNU GPL の条件下で入手可能である。Ximian GNOME デスクトップにおける他のどのコンポーネントについても、debian パッケージやソース・パッケージはもちろん、あらゆるプラットフォーム用のソース RPM を配布している。つまり、そうしたいと思うなら、僕達が出荷したあらゆるパッケージにどんな修正がなされたかを厳密に把握できるし、自分でビルドすることもできるのだ。

僕達が新たに書きおこしたいかなるコード群(「モジュール」)も、GNOME CVS において現在入手可能であるし(Ximian GNOME が出荷されたすぐ後にチェックアウトされた)、これらもまた GNU GPL の条件下で入手可能なのだ。

僕達のパッチは、できる限り迅速に上流のメンテナによって組み込まれることを保証することが最も重要である。もちろん、こうすることでうまくいくのだし、Ximian GNOME の最初のリリースで出た問題を修正することで、埋め合わせをしなければならない。

ほとんどすべての Linux ディストリビューションが帯域外の開発を自分達で行っており、パッチをあてたソフトウェア・パッケージを出荷している。誰もまっさらな Linus Torvalds カーネルを出荷するものなどいない。そして、我々は皆自分達が行った修正や拡張を上流に上げようとする。それにはしばらく時間がかかるんだ。

みんなのために

Dennis は、GNOME 1.4 が彼の環境でうまく動作しなかったと述べている。他の何千人もの人達のうまくいっていた体験を与えることができず申し訳ない。彼のシステム特有の何かが困難を招いたに違いない。GNOME 1.4 チームは、こうしたことが起こらないのを確認するのに、力の限りあらゆることをやった。彼らは、高品質を達成するために、一生懸命働いてくれた。

GNOME 1.4 のリリースが、主に Nautilus をバンドルすることで決まったことは重要なので特に言及しておきたい。僕達が Ximian において Nautilus と GMC の両方を動かす方法を提供するとしたら、それは Nautilus の新機能が、古いファイル・マネージャーよりも多くのメモリを消費することを分かっているからである。ローエンド機上で GNOME を動かしてもらうことを重視するので、僕達はユーザが新しいファイル・マネージャと古いファイル・マネージャをユーザに選択できるようにしたかった。Ximian において、僕達はデスクトップ上で、大抵 Nautilus を動かしている。

現実に、我々は GMC を使いつづけたいというリクエストを受けていた。でも、この決定は我々だけで行ったものではない。GNOME リリース委員会が、GNOME 1.4 に Nautilus だけでなく、GMC も含める選択を行ったのだ。

これこそが GNOME のやり方なんだ。誰も一方的に支配しない。誰もがあまねく貢献する。そしてその貢献は、コードであったり、デザインに関する専門知識であったり、不安でさえありうるのだ。


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初出公開: 2001年05月13日、 最終更新日: 2001年05月20日
著者: Miguel de Icaza
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)