思考と表現の間に人生がある(ルー・リード)
本書は、Rebecca Bloodによる『The Weblog Handbook: Practical Advice on Creating and Maintaining Your Blog』(2002, Perseus Publishing)の全訳である。日本語版の刊行にあたり、原著者による日本語版への序文が追加されている。本書の翻訳については、冒頭の『われわれが思考するごとく』からの引用を除いては、既訳は特に参考にしていない[1]。
原著は、アメリカにおけるウェブログムーブメントの高まりを受けて執筆された書籍の先陣を切るものであり、2002年のAmazon.comの編集者が選ぶベストブックのデジタルカルチャー分野[2]において、Kevin Mitnickの『The Art of Deception』[3]などと並んで選ばれるなど、高い評価を受けている。また、いくつかの大学では、本書が講義テキストとして採用されている。
著者のRebecca Bloodは、1999年にシアトルの大学に勤めていたときに、当時コミュニティが形成されつつあったウェブログに興味を持ち、自身のウェブログ「what's in rebecca's pocket?」を開設し、技術的な話題に限定されない幅広い内容を扱う(本書における分類にあてはめるなら)フィルタスタイルのウェブログを運営し続けている。また本書執筆後は、ウェブログコミュニティのスポークスマンとしてプレスに意見を求められることも多く、ウェブログをテーマとするカンファレンスなどで講演も行っている。
本書を特徴付けているのは、ウェブログコミュニティをその草創期から知る著者の幅広い視点と、何よりにそれに対する深い熱意である。本書は、その副題通り、これからウェブログを始める人達に対し、それをより良いものにするのに必要な心得を記したものであるが、個人ウェブサイトの運営のあり方についての、特定の環境に依存しない普遍的な指南書になっており、我々日本人にとっても有意義な内容となっている。
そして、本書(特に一章の最初とあとがき)は、アメリカにおけるウェブログコミュニティの誕生と発展について当事者が語るドキュメントになっており、歴史的資料としても貴重である。そこで語られる様々な逸話(新規参入組により日が当たらなくなり不満を募らせる古参ウェブロガー、ウェブログは自分が発明したと称して総スカンを食うジャーナリストなど)に、日本のネットコミュニティにおける類似した出来事を想起する人も多いだろう。
日本において、ウェブログという言葉がたびたび混乱を引き起こすのは、定義が人によって異なり、その言葉が指すところが一意でないことに主に起因している。我々がテキストサイトと呼ぶサイト群との違いは? ウェブ日記は、個人ニュースサイトは、掲示板はウェブログなのか? 特定のツールで作らないとウェブログと言えないのか?
実はそうした混乱は日本だけに限った話ではなく、アメリカ本国においても似たところがあり、本書にもウェブログの定義が未だに議論になることが書かれている。最近でも、アメリカ最大のインターネットサービスプロバイダであるAOLがウェブログサービスを開始するにあたり、ウェブログ(ブログ)という言葉が利用者の混乱を招くということを理由に、「AOL Journals」という名称を採用している[4]。
それでも本書を読めば、アメリカにおけるウェブログコミュニティの成り立ちと歴史的な展開を踏まえながら、ウェブログというpublishスタイルの本質を理解できると思う。
著者は、本書においてウェブログをブログ、ノートブック、フィルタという3つのカテゴリに分類している。元々ウェブログとは、ウェブで見つけた面白いウェブページをリンクし、それにコメントを付けて紹介するフィルタ型のサイトを指し、ウェブ日記(journal)などは含まなかった。しかし、Blogger登場後には短い文章からなるウェブ日記型のブログと、ブログよりは長めの文章からなるノートブックという、必ずしもリンク志向でない形式を含むまでウェブログ(コミュニティ)は拡大していく。著者自身、ブログとノートブックに関しては、ウェブログムーブメントが起こる何年も前からあるオンライン日記と厳密に区別できないことを認めている。ウェブログを知った時期により、その言葉が指すものが主に「フィルタサイト」であったり、「短文式のウェブ日記」であったりと揺れが生じるのだから、我々日本人がその言葉に混乱するのはある意味仕方のないことである。ウェブログは、もはや特定の厳密な形式、ましてや特定のツールで規定されるものではないのだ。
言葉が指す範囲は拡大したが、それでもウェブログをウェブログ足らしめるフォーマットは確実に存在する。それは頻繁に追加更新される最新のエントリがページの最上位に表示され、過去のエントリが記事単位で参照可能なようにアーカイブ化されるという「ウェブというメディアに最適化されたpublish形態」である。外部へのリンクをどの程度多用するか、サイト運営形態といったもののポリシーは、それぞれのウェブログで異なる。
ウェブログは特定のツール、サービスに依存するものではないし、逆に、サイト管理にウェブログツールを用いながらも、自身のサイトをウェブログとはみなさない人もいる。そういういささか捩れた現状に対する著者の主張は明快である。つまり、ウェブログは参加型のメディアである。ウェブログという形式自体が新しかったのではなく、新しかったのはコミュニティである。ウェブログの最も重要な役割は、コミュニティを形成することであり、情報発信を行う個人からなる民主的なコミュニティこそがウェブログムーブメントなのである。
一方、日本における個人サイトのコミュニティはどのように発展してきたのか。
日本においてホームページが初めて公開されたのは1992年[5]まで遡るが、インターネットが大衆化し、コミュニティが形成されるのは1995年以降であり、本書の記述と比べてみても、(ユーザ数は別として)日米で大きな差はない。ただ日本では、アメリカのように企業主体の強力なオンラインパブリッシングが行われなかったため、当初からアマチュアであるが熱意のある個人サイトが中心となり、ウェブ文化を盛り立てることとなった。個人サイトの多くはウェブ日記をメインコンテンツとするようになり、それを中心として自発的にコミュニティが形成されていった。
またそれは、べんりくンや津田日記リンクスなどに始まり、後の日記猿人(現在の日記才人[6])、そしてReadMe! JAPAN[7]に至る個人サイトのランキング・ポータルサイトの歴史でもある。
ウェブ日記がこぞってこうしたランキングサイトに参加し、そこでの順位を競ったのは、当たり前であるが、自分が書いた文章を多くの人達に読んでほしかったからである。そうした意味で、初期の段階においても、これらのウェブ日記は、単なる紙の日記をウェブを舞台に置き換えただけのものではなかった。その書き手は読者の存在を強く意識していたのだ。
例えば、1999年には「ハイパーダイアリー」という言葉が提唱されている[8]。この言葉は現在では全く使われないが、それはその理念が廃れてしまったということではない。むしろ、そこで述べられていた、他サイトへの言及を通したウェブコミュニティの形成が、ハイパーダイアリーという言葉に依存しなくても、ごく普通に行われるようになったからとも言える。
そうして、ウェブ日記の一部は、もはや単なる「ウェブに書く日記」にとどまらない「テキスト」としての価値を主張し、それが後の「テキストサイト」という呼称につながっていった……とも言えるが、一方で日本の個人サイトの多くが、(フィルタスタイルのサイトの多くまでも)あくまで「日記」というどちらかというと内向きな名称を使用してきたのに注意すべきである。日付単位の形式上内向きなウェブ日記文化と、エントリ単位、トピック単位のpublishに重点が置かれる外向きなウェブログ文化の違いというのは、両者の相違点としてしばしば挙げられるところである。
また、ウェブにおける興味深かったり、役に立つURLを紹介するリンク志向のフィルタスタイルのウェブサイトも、日本でも1997年頃から存在してきた。企業のニュースサイトの記事をネタ元にするサイトが多かったことから、それらのサイトは「個人ニュースサイト」と呼ばれるようになるが、1999年のムーノーローカル[9]登場以降は、一日数万を越すアクセスを集める大手サイトも珍しいものではなくなった。サイト数の増加とともに、個人ニュースサイトは扱うトピックに広がりを見せながら現在に至っており、この段階まで来ると、サイトのインタフェース、内容のいずれにおいても、日本の個人ニュースサイトとフィルタスタイルのウェブログの違いは小さくなっている。
そして、個人ウェブサイトではないものの、日本におけるネットコミュニティを語る上で欠かせないのは、世界最大規模の匿名掲示板2ちゃんねる[10]の存在である。2ちゃんねるがあまりにも巨大になり、またカバーする話題の範囲も広いため、アメリカにおいてウェブログが担った役割は2ちゃんねるが果たしていたという意見もあるが、両者における情報公開のあり方があまりにも違うことを考えると俄かには同意しがたい。それでも、2ちゃんねるが現在日本最大のネットコミュニティであり、強力に情報の集約と伝播を行うメディアとなっていることは間違いない。
こうして日本におけるテキストサイト、個人ニュースサイトを見ていくと、アメリカにおけるウェブログと同じような内実を持った個人サイトが、日本にもウェブログとは別の形で発展してきたことがわかる。それは、先に述べたウェブログの3つの分類を、それぞれウェブ日記、(エッセイ寄りの)テキストサイト、そして個人ニュースサイトに置き換えてみれば分かりやすいだろう。もちろん、両者が全く同じということはないが、それでもその初期ならいざ知らず、一通りバリエーションが出揃った現在となっては、その内容から両者を差別化することは難しい。また、無理に区別する必要もないのではないか。
どういうわけか、日本にウェブログを紹介する人達の中には、アメリカにおけるウェブログをさも革新的なものであるかのように過剰に持ち上げる一方で、既存の日本のウェブ日記を「ただの日記」などと貶める書き方をする人がいる。それが単に日本のウェブ日記について無知であるか、本書で述べられている民主的なムーブメントとしてのウェブログについて(特定のサイトやツールに)偏った知識しかないかのいずれかであることは既に明らかになっている。いずれにしろ、日本のネットユーザに何かを紹介しようとする人達の中に、実は日本の個人サイトとそのコミュニティについててんで分かっていない人がいるというのは滑稽に違いない。
技術的な面でも、前述のランキングポータルサイトにおける技術的な蓄積は、サイトの更新を集約する更新情報取得アンテナの開発につながり、その流れは最近のはてなアンテナ[11]まで続いている。また、Permalinkという言葉ができる遥か前に、ウェブ日記初期から存在するhauNコミュニティにおいて、個別の段落へのリンクによる他サイトへの言及を可能にする「段落アンカー」が発明されており、ハイパー日記システム[12]やtDiary[13]に至るまで、高機能なウェブ日記ツール(サービス)に実装されてきた。さらに、これらのツールには、カテゴリ別の表示を可能にするトピック分類機能、双方向のコミュニケーションを促進するコメント機能も含まれている。
しかし、アメリカのウェブログツールの多くが標準でサポートしているRSS情報の配布への対応に関しては、比較的最近まで重視されていなかった印象がある。これは前述の更新情報取得アンテナ全盛の裏返しという側面もある。そもそもアメリカのウェブログツールに、メタデータによりサイト情報の要約を公開するRSSが積極的に取りこまれたのは、ウェブログコミュニティにXML-RPC、SOAPといったウェブサービス用の通信プロトコル、そしてRSSそのもの[14]の主要開発者であるDave Winerの存在があったのが大きい。本書にも何度か登場するDave Winerは、ウェブログツールRadio Userlandなどの開発を行うUserLand Software社の創設者であり、ウェブログScripting Newsを1997年4月以来運営している最古参のウェブロガーでもある。
さて、このように、コンテンツ面、ツールの機能面からアメリカにおけるウェブログと日本におけるテキストサイトを比較してみたが、両者の一番の違いはやはり社会的認知の度合いではないだろうか。その差異の原因として、やはり先にも述べた日米の内向き/外向き文化が影響したところはあるだろう。特にアメリカのウェブログコミュニティは、当初、既存のオンラインメディアの敵意に晒されたという経緯があり、既存メディアに対するプレゼンテーションの意識が強かった。それはウェブログをテーマにしたカンファレンスがたびたび開かれていることからもわかる。
しかしそれ以上に、アメリカにおけるBloggerと9.11テロに対応するものが日本にはなかったのが大きいのではないだろうか。
Bloggerがウェブログコミュニティに果たした功罪については、本書のあとがきに詳しいが、日本には同様の役割を果たした高機能かつウェブログ作成の敷居を劇的に下げるツールが存在しなかった。前述の通り、高機能なウェブ日記ツールはいくつもあったが、その多くはどちらかというプログラミングの知識のある技術者向けという印象があった。
また、Bloggerは企業のニュースサイトに近い外観を提供したが、日本のウェブ日記ツールはそうしたベクトルを向いていなかった。これには、前述の主要ユーザ層が見た目重視でなかったことと、日本ではアメリカに比べてインターネットへの常時接続サービスの普及が遅れたため、リッチな外観が必ずしも歓迎されなかったことがある。
日本のウェブ文化が当初から個人主導であったことは先にも述べたが、逆に言えば、日本の場合企業主導のオンラインパブリッシングが手本にならず、ウェブログという総称でまとめられるサイトインタフェースの「型」が確立できなかったところもあるのかもしれない。日本のテキストサイトにおけるブレークスルーは、例えばテキストサイトの読者数を10倍にしたといわれる侍魂[15]、VNIという特異なサイトスタイルを発明したバーチャルネットアイドルちゆ12歳[16]など、あくまでコンテンツ単位、サイト単位で行われてきた(当然ながら、どちらが上、ということはない)。
そして、アメリカにあり日本になかったものとして9.11テロを挙げるのは、いささか不謹慎に思われるかもしれないが、この事件後、ウェブログの認知度が一気に高まったのは間違いない。この事件がウェブログコミュニティにもたらした質的変化については、やはり本書のあとがきを参照いただきたいが、氾濫する情報から有効なリソースを選別するフィルタサイトの復権を実現しただけでなく、既存のメディアに乗らない個人の生の声を伝えたい、読みたいという欲求にウェブログが応えたのは間違いない。
アメリカにおいて初めてといえる個人主導のネットムーブメントが、そのコミュニティの力を認識させる大事件とうまく重なったのに対し、日本の個人サイトコミュニティは、その初期にある程度の形を成したために、それぞれ独立して発展し、ウェブログのような統一されたスタイル・イメージを確立することがなかった。
原著が刊行されてから1年余りになるが、その間もウェブログコミュニティは拡大し続けており、モバイル機器を利用するモブログ(moblog)、音声を利用したaudblogといった言葉が生まれるなど、ウェブログが網羅する範囲も広がり続けている。
利用者についても、ジャーナリスト、ミュージシャン、作家、法学者、そして政治家にいたるまで、本書における「名声を確立する」手段としてのウェブログを作る人が増えている。本書には、報道のプロであるはずのジャーナリストが、ウェブログというウェブに特化したpublish形態の特質を理解せず、既存メディアの意識を引きずったまま「ウェブログもどき」を作ることについての辛辣な批判があるが、利用者層の広がりともに成功例も増えつつある。Dave Winerがハーバード大学のロースクールに、ウェブログに関する貢献を求められて研究員として迎え入れられた[17]という事実、企業による顧客とのコミュニケーションツール、企業内の情報共有ツールとしてのウェブログ利用の広がりもそうした社会的認知の現れといえる。海外のニュースサイトで、weblog、blogという単語を見かけない日はないくらいである。
著者による日本語版への序文にも触れられている通り、Google社によるBloggerの開発元であるPyra Labの買収は、現在のGoogleという企業の高いステータス、またそのニュースをスクープしたのがジャーナリストであるDan Gillmorのウェブログであった[18]という事実と併せ、ウェブログを巡る状況を象徴的に表しているとも言えるが、訳者が真っ先に思い出したのは、著名なSF作家であるWilliam Gibson[19]による「近い将来、あらかじめネットを調べて回ることを商売にする人達が現れる」という1996年の発言であった。この言葉はロボット型検索サイトの出現を言い表していたが、実は本書にこれと同じ着想を持った言葉があるのにお気づきだろうか。冒頭のVannevar Bushによる『われわれが思考するごとく』からの引用である。その相似は偶然ではないと思う。
Googleの創業者であるLarry Pageは、元々検索エンジンを作りたかったのではなく、あるウェブページについてコメントしているウェブページの評価付けを行う仕組みを作りたかったということは知られているが、そうした意味で、Googleがウェブログという個人オンラインパブリッシングに注目するのは自然な流れであるし、Bloggerを利用したウェブサービスの登場を期待できるのではないだろうか[20]。
同じく日本語版への序文に書かれているように、RSSによるメタデータの利用が、一般ユーザレベルで本格化しつつあるのも原書刊行以後の大きな変化の1つである。日本ではウェブログを誇大に宣伝するためか、9.11テロ後にウェブログによる情報共有が進んだ理由としてメタデータがあったからだと主張する人もいるが、端的に言ってそれは正しくない。
いずれにせよ、現在ウェブログの周辺で先進的なサービスが育っているのは、そのムーブメント自体の勢いもさることながら、メタデータによる情報の再利用がスムーズに行える利点があるのは間違いない[21]。
それに併せ、Movable Type[22]を始めとする一部のウェブログツールに実装されたTrackBack機能[23]などに代表されるように、ウェブログツールはXML技術を基盤として「ウェブというメディアに最適化されたpublish」を先鋭化させている。ウェブログツールはもはやサイト作成の簡略化のレベルに留まらず、コンテンツとサイトデザインの分離を実現する言葉本来の意味でのCMS(Content Management Systems)、パーソナルウェブサービスの領域まで達している。
一方で、著者が本書のあとがきで表明していた、政治問題、時事問題に興味のあるウェブロガーが、9.11テロ後、自分達の主張に合致するウェブログしかリンクしたり読んだりせず、ますます自分達のグループ内で閉じこもっているように見えるという懸念は、先の米英によるイラク侵攻前後のウェブログコミュニティにおいても現実化していることを著者は語っている[24]。報道官制が行われたアメリカにおいて、主要メディアに載らない情報を伝播するウェブログコミュニティ、そしてバクダッド在住の男性が作成しているとされるウェブログ[25]などが主に注目されたが、ウェブログコミュニティが抱える問題も明らかになりつつあるように思う。
ウェブログを巡る議論において、コミュニティ、コミュニケーションという言葉が、あたかもそれそのものが善であるかのように使われるのが散見されるし、インターネット初期に語られたサイバー民主主義の焼き直しに過ぎない討論民主主義、直接民主主義をウェブログを利用して実現できると主張する向きもあるが、本書は政治的に細分化されたウェブログコミュニティの危険性をも平易な言葉で表現しており、ウェブログコミュニティに深い愛情を注ぎながらも、著者が同時に冷静な認識を保っていたことがわかるだろう。
さて、そこで再度日本の状況を見てみると、海外の主要なウェブログツールの日本語対応情報も増え、チャンネル北国tv[26]などのウェブログのホスティングサービス、Myblog Japan[27]のようなウェブログ専用のポータルサイトなど、ウェブログの普及に欠かせない要素が揃いつつある。おそらく、今後まもなくAOLや米Lycosのように、日本でもプロバイダによるウェブログサービスが提供されると思われる。そうなれば、もはや日本でも一般的なネットユーザがウェブログを始める技術的な障壁はほぼ解消されるだろう。
国内のウェブ日記サービスやツールも、アメリカにおけるウェブログムーブメントを意識して機能追加がなされており、良い刺激になっていると言える。その筆頭例として、はてなダイアリー[28]、またそのはてなダイアリーを始めとして他のウェブ日記ツール、Wikiエンジンとテーマ互換の共栄圏を作り上げたtDiaryの活発な開発が挙げられる。今後も既存のコミュニティを拡大しながら、ウェブログツールとの緩やかな連携が実現されればと思う。
訳者としては、本書を読みウェブログを始める人や、既にウェブサイトを持っている人でも本書がきっかけとなり、ウェブログというフォーマットでサイトを再構築する人が増えることを願っている。もちろんそれがウェブログでないといけないということはないが、選択肢が増えることは好ましいことである。自分に一番合った、最もその人の力を発揮できる形式・手段を見つけられる可能性も増すからだ。
ウェブログツールを使って作れば自動的にウェブログになるという考えを著者は強く戒めているが、一方で、これからウェブログを作る読者に対して、(著者自身は現在もHTMLを手書きしているにも関わらず)迷わずウェブログツールやサービスの利用を勧めている。インターネットはもはや我々の生活インフラになっているが、それでも個人ウェブサイトを作る層に偏りがあったのは間違いない。これまでウェブに出てこなかったような声がウェブログを契機としてどんどん表に出るようになり、既存のウェブユーザでも、現在利用しているサービスに満足できなかった人達が、自分に合った適切なスタイルを見つけてサイトをビルドアップしたり、コンテンツの質を上げるのに注力できるようになれば、それは素晴らしいことである。著者が語るように、どのウェブログにもカバーされていない分野がまだまだ残っている。
ツールやサービスが利用できるようになり、その解説ページが揃ったとしても、それは出発点に過ぎない。個人がウェブサイトを作成し、コンテンツを蓄積しながらサイトを運用していく上での心得について、当事者である著者が丁寧に解説する本書は、網羅的で有用な指南書として読者のお役に立つはずである。
重要なのは、ウェブログという手段そのものではなく、それによって何を表現するかということである。ウェブログとは何か、○○との違いは、といった議論はもう終わりにして、各々が選択した、その人が一番力を発揮できる手段で自己表現をする段階に移ってほしいというのが訳者個人の願いである。
本書の翻訳にあたっては、多くの方々のお世話になりました。まず何より、訳者の質問に非常に丁寧に回答してくれ、また日本語版への序文を執筆してくれた原著者のRebecca Blood氏に感謝します。また本書を担当された毎日コミュニケーションズの西田雅典氏に感謝します。
またこの訳者あとがきを書くにあたり参考にした文章の著者の方々、特に堀越英美氏、ぼるぼら氏、そして加野瀬未友氏に感謝します。
そして最後に、友人のベンジャミン氏とふじも氏に対し、個人的な感謝の言葉を述べておきます。本当にありがとう。
2003年9月1日 独房よりも狭い自室にて
田口和裕、堀越英美、ばるぼら、sawadaspecial『ウェブログ入門-BloggerとMovable Typeではじめる』(翔泳社)
釜本雪生+くぼうちのぶゆき『テキストサイト大全』(ソフトマジック)
ばるぼら「教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史ヽ(´ー`)人(´ー`)ノ」
http://blogdex.tripod.co.jp/encyclopedia/
永江孝規「インターネットにおける自発的コミュニティの形成,特に Web 日記に関して」
http://www.shobi-u.ac.jp/~tnagae/pub/wdc/
HotWired Japan Matrix Vol.029 「blogってどうよ?」
http://www.hotwired.co.jp/matrix/0305/
堀越英美「ウェブログに見る日米個人サイトコミュニティ事情」
http://www.zdnet.co.jp/news/0305/07/cjad_horikoshi.html
ばるぼら「できる!ウェブログ」
http://blogdex.tripod.co.jp/blog/
加野瀬未友「Weblogツールリスト」
http://artifact-jp.com/weblog/
[1] 『われわれが思考するごとく』については、西垣通編著訳『思想としてのパソコン』(NTT出版)から引用した。
[2] http://www.amazon.com/exec/obidos/tg/feature/-/400254/
[3] ソフトウェアパブリッシングより『欺術』として2003年6月に日本語訳が刊行されている。
[4] http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000047715,20059917,00.htm
[5] World Wide Web Project IBARAKI(http://www.tsukuba.org/www/)
[6] http://www.nikki-site.com/
[7] http://readmej.com/
[8] 翻訳家、評論家の大森望氏によるハイパーダイアリー関連原稿アーカイブ(http://www.ltokyo.com/ohmori/d_article.html)に詳しい。
[9] 2001年8月19日に閉鎖(http://web.archive.org/web/*/http://www.muunoo.com/)
[10] http://www.2ch.net/
[11] http://a.hatena.ne.jp/
[12] http://www.h14m.org/
[13] http://www.tdiary.org/
[14] RSSとして総称されるXMLフォーマットには複数のバージョンが存在し、そのバージョンにより"RDF Site Summary"の略であったり、"Rich Site Summary"の略であったり、はたまた"Really Simple Syndication"の略であったりする。日本語で書かれたRSSの解説としては、神崎正英氏による「RSS -- サイト情報の要約と公開」(http://www.kanzaki.com/docs/sw/rss.html)が有名であるが、これはDave Winerが開発に携わっていないRSS1.0についての解説が大部分を占めるのに注意。
[15] http://www6.plala.or.jp/private-hp/samuraidamasii/
[16] http://tiyu.jp/
[17] http://www.zdnet.co.jp/news/0303/05/ne00_harvard.html
[18] http://weblog.siliconvalley.com/column/dangillmor/archives/000802.shtml
[19] 彼も2003年に入り、ウェブログを始めている(現在は、更新を停止している)(http://www.williamgibsonbooks.com/blog/blog.asp)
[20] もっとも、ウェブログが(サイドバーなどで)他のウェブログへのリンクを多用するため、Googleが採用しているページ重要度の自動判定技術であるPageRankがウェブログに対し有効に機能しないため、Google検索においてウェブログを別枠にするという構想もある。
[21] 本文を書いている時点で、RSSの次世代規格を巡る論争が起きており、それについては、「ブロッグの世界でも、ついに“業界標準戦争”」(http://www.zdnet.co.jp/news/0308/05/ne00_blog.html)に詳しい。
[22] http://www.movabletype.org/
[23] TrackBack機能の分かりやすい解説として、Movable Type作者による解説文の日本語訳(http://kotonoha.main.jp/weblog/000138_trackbackguide.html)がある。
[24] http://www.hotwired.co.jp/matrix/0305/002/index3.html
[25] Where is Raed ?(http://dear_raed.blogspot.com/)
[26] http://ch.kitaguni.tv/
[27] http://www.myblog.jp/
[28] http://d.hatena.ne.jp/