結城浩さんによる「固有IDのシンプル・シナリオ」が公開されている。以前 otsune さんが、ネット上のフレームを善意による文章に昇華させる結城マジック、といったことを書かれていたと思うが、これもその好例だろう。これだけの文章を実に分かりやすく、かつ網羅的に書かれたというのが素晴らしい。
この文章に対する反応は既にいろいろ出ているので、ここではもう少し個人的なことを書きたい。ワタシは今年の四月に Sensorware(前編)、(後編)という、IC カードや RFID に IPv6 の現状を絡めた文章を書いた。この文章には、ここで話題となっている RFID のプライバシー問題についてはほとんど触れていない。何故書かなかったかというと、理由は簡単で、よく分からなかったからだ。
できるだけ羽を広げるような文章にしたかったので、セキュリティ問題に関係することはとりあえず最後にとっておくという方針を採ったのだが、IC カードの利用に伴う問題は既に顕在化していた事例があったのでイメージが掴みやすかったし、IPv6 については IPsec 周りの話でお茶を濁したりもしたが、正直 RFID のプライバシー問題のポイント、そしてその現状の自身の理解に納得がいかなかった。
分かったつもりでも、実は分かっていないというのもよくあるのに、ましてや分かっていないと承知していることを、さも分かったように書くわけにはいかないので、初歩的な記述にとどめておいた。案の定、文章を公開すると早速山根信二さん(最近の日記は特に注目すべき内容になっています)と青山祐輔さんからご指摘をいただき、当人が分かったつもりのところについてもツメの甘さを痛感させられたものである。
そしてしばらくして、高木浩光さんによる「固定IDは"デジタル化された顔"――プライバシー問題の勘所」が公開され、RFID のプライバシー問題について、なるほどそういうことだったのかと唸らされた。
しかし、その後森山和道さんによるいささか感情的に取れる反応があり、またそれに対していくつか反応があった。そこでワタシがすかさず YukiWiki 上に作ったのがRFID反応リンク集である。森山さんにとっては少し分の悪い内容となったが、大げさに書けばそうしたところで変に遠慮しないことがウェブ雑文書きの倫理だと考えている。
こういういきさつを書くのは、今や一大リソースと化した Wiki ページを立ち上げたのはオイラだぞぃ! と自慢したいという気持ちがあるのはもちろんだが、実はそれは重要なことではない。何故なら、RFID反応リンク集が真の意味で整理され、有効なリソースと認知、参照されるようになったのは、最初ページに入れていた当方のクレジットを自ら削除し、その後ただただしさんがページを再構成した後からだからだ。つまり、あのページの成功の立役者は、たださんをはじめとしたあのページの編集者、そして言うまでもなくあのページにリンクされた文章を書いた人達である。
この事実は、以前話題になったWikiと署名の問題について重要な示唆を与えていると思う。また件の Wiki ページは、反応リンク集という Wiki の便利な使い方を多くの人達に知らしめる契機になったのではないか(RFID反応リンク集が、こういう使い方をした元祖という意味ではない)。
Wiki による反応リンク集というのは、ローテクな過渡期のソリューションである。例えば blog ツールの TrackBack 機能などを応用することで、もっとスムーズな情報の再利用が可能なはずだという議論があるし、ワタシもいずれはその方向に進むのかなと思う。しかし一方で、「イノベーションのジレンマ」ではないが、こういうシンプルで原始的なソリューションこそ草の根で利用されやすいものだし、また何より Wiki そのものの参入障壁を下げる役割を果たしたのは間違いない。改めて反応リンク集のリンク集を見ると、そういうことを考えたりもする。
思えば Wiki 自体、既存のごく単純で平凡な CGI 技術から、編集可能なウェブページを実現したハックなのだから、そうした利用法も Wiki に相応しいと考えられないこともない。
そして今回は、結城さんの文章に反応が出るのに合わせて「固有IDのシンプル・シナリオ」反応リンク集を作ってみた。といっても何のことはない、textfile.org に集められた URL から、何かしら意見を述べているものを時系列に抽出しただけで、あまり必要なかったかもしれないが、まあこちらも皆さん自由に編集してください。