『Wiki Way』ショートエッセイ(9)
Surviving the Wiki Way


まえがき

 旧聞に属するが、第二回Wikiばなが無事終了した。その内容については、各自のポジションペーパー、並びに感想を辿っていただきたい。ワタシ自身は本編には不参加だったが、それに関連していくつか興味深い議論を見かけたので、『Wiki Way』を少し調べてみた。

 正確に書けば、ほとんど誰も『Wiki Way』を参照すらしてくれないので、ワタシがやってみたといったところである。

 以前にも書いたことがあるが、ワタシは『Wiki Way』を長らく読み返せなかった。翻訳当時の恐怖を思い出すのがあまりにもつらかったためである。約一年間原書の中で生活していたといってもよいから、内容は頭の中に全部入っていると強弁もできたわけだが、昨年 UNIX USER 誌の原稿を書く段になって、大分抜け落ちているのを思い知り愕然とした。年を取るというのは悲しいことである。

 加齢による衰えの話はともかくとして、今『Wiki Way』を読み直して思うのは、こんな商業的ポテンシャルの低い本が(失礼!)、2002年の段階で日本で刊行されたこと、そしてその大著の翻訳を yomoyomo という馬の骨が担当したことはまったく驚きであるということだ。

 訳者の贔屓目を差し引いても、『Wiki Way』は良書だと思う。が、冗長、瑣末なため読みにくいところがあるのは認めざるを得ない。引き合いに出されないのは『Wiki Way』にも原因があるのかもしれない。

Wikiのデザイン

 まず diary.yuco.net の6月10日分における秀逸な分析をご覧いただきたい。ここで指摘されている問題について意識的だった人として、sheepman さんがまず浮かぶ。各 Wiki エンジンのナビゲーションを比較した Wiki Navigation Design を見ても分かる通り、ナビゲーションもその Wiki エンジンのポリシーが反映されている……ともいえるだろうが、yuco さんが指摘するように、ばらばらのもの(しかも英語、日本語入り混じりの場合が多い)が無理に一列に並んでいる感じが否めず、それが敷居を高めているところもあるだろう。

 『Wiki Way』では、どの Wiki ページも外部からの入口になりうる/なるべきであることが執拗なまでに繰り返されるが、その解決策としても、Wiki 全体に適用される機能とその Wiki ページのみに適用される機能を分け、前者についてはサイドバーにまとめるというアイデアは、ウェブログ普及以後の方向性として正しいものなのだろう。

 ここで個人的な余談だが、ワタシは以前はサイドバーが嫌いで嫌いでたまらなかったのだが、最近では抵抗感はほぼなくなり、YAMDAS現更新履歴に導入しようかとときどき思うくらいである。でも、YAMDAS Project 本体には絶対付けないがな!

 以前ある方とウェブロ関係でメールのやり取りをしたとき、Movable Type の優れた点として作者にデザイナーがいたことを挙げられていて、確かにその点では日本のツールは弱いわなと思ったものである。

 一部の Wiki エンジンは、tDiary テーマ互換により見た目の向上を果たしたと言えるが、今後はそれに留まらない、ウェブロ、CMS ツールの外観設計を踏まえた「ページデザイン」が重要になるのかなと思う。もちろんそれらの悪いところは見習うことはないわけで、Wiki は見た目の瀟洒さよりも、分かりやすさとユーザビリティを優先してほしいと思う。まあ、このあたりの話題が「Wikiデザインバトル」に引き継がれるのだろうか。

 『Wiki Way』でこの手の話となると、「3.5.1 フォント、文字サイズ、レイアウト」あたりになるが、さほどの分量を取っておらず、デザインを重視していないのは『Wiki Way』でも同じなように思える(ただ、ここに書かれている内容すら十分には実践されていないのだが)。

 ページ内容的な分かりやすさという点では、例えば FrontPage にリンクを入れるべきページについてノウハウがあるのだが、これについては yuco さんの日記に当方がコメントしている通りである。

Lotus Notesでいいのではないか

 Wikiばなにおいて、ゆきちさんによる「なぜグループウェアにWikiを使うんですか? Lotus Notes のほうがいいのに!」という発言があったようで、それについては SHIMADA さんの反応に当方もほぼ同意である。

 企業内では、基本的に Wiki はニッチな用途に用いられるものだと思う。既に Lotus Notes のようなグループウェアががっちり運用されているなら、それを無理に Wiki に置き換えようとするのは愚の骨頂である(そんなことをする人はいないだろうが)。

 しかし、そうした環境であっても Wiki を使うと便利な局面はあるはずで、適宜便利なツールとして使えばよいだけの話である。利用時期に区切りがあってもよい。また現実には Notes など本式のグループウェアを採用していないオフィスなどいくらでもある。そこでも Wiki を利用するか Notes を導入するかというのが二者択一になることはまずないだろう。導入費用、運用規模が違いすぎるからだ。

 『Wiki Way』の「2.3.3 Wiki以外のサーバ」において、Wiki 以外のサーバサイドのソフトウェアとの比較を行っているが、そこに Lotus Notes などのグループウェアは比較対象に入っていない。それについて、以下のように説明されている(p.32, p.35)。

 企業で働いた経験のある読者なら、業務に強いグループウェアソリューションが表にまったく入っていないのを不思議に思うかもしれません。そうしたソリューションを省略したのは、それらがユーザ1人で仕切れる選択肢ではなく、業務に強いリソースやサポートを必要とすることが多いという現実が主な理由です。

 この後比喩として出てくるが、自転車を電車や戦車と比較するのはおかしいということである。

 Wiki のグループウェアと比較した場合の優位性は、その柔軟性、機動性の高さにあると思う。それを活かせるような規模・用途があれば使うというのでよいのではないだろうか。

 『Wiki Way』に、Lotus Notes という言葉が登場するのは、「11.2.3 CoWebでのユーザの役割」一箇所だけである(p.381)。

 CoWebの教育環境への導入の話は、様々な意味でLotus Notesなどのツールを組織に導入する場合に似ています。

 ここで注意すべきなのが、第11章におけるジョージア工科大学の CoWeb の導入事例は、運用サーバが10台、利用者数が1000人を越える大規模なものであるということ。つまり、それこそ教員、学生両方の「リソース」、「サポート」を必要とする事例である。これは Wiki をグループウェア並の規模で導入する場合の話で、企業において例えばチーム単位で Wiki を立てる、言い換えれば管理は大体一人が仕切るようなレベルではないということである。

 そういう規模で Wiki を導入するのが可能だったのは、やはりそれが企業でなく大学だったからなんでしょうな。

未決リンクの後の?について

 最後は小ネタだが、たつをさんが未決リンク(dangling link:まだ WikiName ができただけでページの中身がない場合に WikiName に付くリンク)に挿入される ? にイライラさせられるという話をされていた

 これについて『Wiki Way』の著者は、ちょっと変わった提案をしている(p.98)。

Tip4.9 ?NewPageにすべきか、NewPage?にすべきか
 我々は、オリジナルのWikiの?が後に付くモデルよりも、?が前に付くモデルの方が好きです。それは、その方が空リンクの概念をうまく示せているからです。前に置く方が、句読点の邪魔になりにくいということもあります。

 ここでの提案が普及してないのは、後ろに付くほうが実装しやすいからだろう(追記:ということではないようだ)。

 ChangeLog? が ?ChangeLog になることでたつをさんの苛立ちがおさまるかは分からないが(追記:日本語のように分かち書きされない言語では解決策にはならないようだ)、? を未決リンクとするのではなく、やはり WikiName 全体をリンクとし、スタイルシートで見た目を区別する、という MoinMoin などが採用している解決策がベストなのかもしれない。

あとがき

 さて、ここまで読まれた方はお分かりの通り、『Wiki Way』は Wiki の経典などではない。これ一冊を規範にすれば何にでも対応できる、わけはないのだ。

 例えば最近の事例で言えば、spam目的のWiki書き込みぱど厨とWikiの話は、これまでの荒らし対策とはまた違った意味合いがあるように思う(特に後者はちょっとショッキングだった)。ワタシ自身も、過去の「小人さんという呼称はあまり好きでない」という主張を撤回し(本当はする必要はないのだが)、小人さんを増やすことに力を入れるべきだと思ったりもする。

 もうちょっと明るい話題では(なのか?)、Wiki の普及に萌えキャラが必要だなんて考えは、偉人 Ward Cunningham でも絶対に思いつかないものだろう。そして実際、すぐにコラボレーションが実現してしまうわけである(笑)。

 このように現実は『Wiki Way』を一部凌駕している。しかし、ワタシは基本としては飽くまで『Wiki Way』を起点として Wiki の面白さを見ていくだろう。もちろんそうでない人たちも増えるだろうし、状況が変わり、求められるものが変わり、それとともに Wiki エンジンの実装、ターゲット、用途も微妙に変わり、Wiki が他の種類のソフトウェアを取り込んだり、逆に取り込まれたりというのも出てくるだろう。それは自然なことである。ユーザに WayToWiki が開かれ、実際にそれが道具としてユーザの役に立てばそれでよいのだと思う。


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初出公開: 2004年06月21日、 最終更新日: 2004年06月22日
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