The Apple Public Source License に関する我々の考え

著者: Bruce Perens, Wichert Akkerman, Ian Jackson

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Bruce PerensWichert AkkermanIan Jackson による、The Apple Public Source License - Our Concerns の日本語訳である。

アップル社が Mac X Server のソフトウェアの中核部分をオープンソース化するという発表を受け、Bruce Perens 他、オープンソース界の重要人物三人がコメントしたものである。当時対立関係だった Eric S. Raymond を名指しで批判している(ESR も OSI の公式見解として反論している)。

本翻訳文書について、Hiroyuki Suzuki さんから誤記の指摘をしていただきました。ありがとうございました。


序文:1999 年 4 月 19 日月曜日、アップルは APSL バージョン 1.1 をリリースし、ここに述べた懸念の殆どを処理した。


Bruce Perens:「オープンソースの定義」の主著、オープンソース・イニシアティブの共同設立者
Wichert Akkerman:Debian プロジェクトリーダー
Ian Jackson:Software in the Public Interest 座長。Debian パッケージのインストール・ツール dpkg の作者

我々はアップル・コンピュータ社を、フリーソフトウェア・コミュニティへの参加者として歓迎する。だがアップル・パブリック・ソース・ライセンス(以下 APSL)の現バージョンは、「オープンソース (TM) 」や「フリーソフトウェア」としては不適格と見なされる幾つかの問題点があるように思う。我々としては、アップル社がそうした問題を皆が満足するよう処理することを期待したい。

アップルや IBM のような企業の参加は、他のどんなフリーソフトウェア開発者の参加と区別されるべきではない。誰であれ、貢献をすれば歓迎される。個々の場合において、我々は技術的なところから法律、ライセンスあたりまでの範囲を考慮して、特定の開発者の貢献を受けいれるどうかを決定する。我々はこうした問題を、開発におけるコンセンサス、我々の進路の道標の手段として、ときにまったく耳障りなくらい、コミュニティの面前でオープンに議論している。我々が到達したコンセンサスこそが「オープンソースの定義」であり、これは 1997 年に Bruce Perens と Debian GNU/Linux 開発者により書かれたもので、フリーソフトウェアのライセンスの定義として概ね受け入れられている。

アップル社が APSL の元でリリースしたマテリアルの多くは、カリフォルニア大学バークリー校やカーネギーメロン大学で生み出されたものであることを注記しておく。そうした作業のスポンサーは合衆国政府であり、我々の税金で賄われていて、既に BSD ライセンスや一般に受け入れられているオープンソースのライセンス下でフリーソフトウェアとして入手可能なものだ。そうしたファイルの多くは、アップル社が新しいコピーライトとライセンスを付加したという以外には、以前のバージョンと大した違いはない。他のファイルは完全にアップル社により作られたか、もしくは実際にアップル社の所有物とみなされるべき重要な修正が施されている。アップル社が、以前のバージョンから個々のファイルに大した修正をしてない部分に関しては、元々のライセンスは APSL の付加なしに守られるべきだ。

APSL の 2.2 節 (c) には、APSLライセンス下のコードを修正する者は、Apple.com ドメイン内の特定の URL を辿り、アップル社に通知する必要があることが記されている。アップル・コンピュータ社が近い将来消滅してしまうことはありそうにもないが、そうした悲しい事態が起きた場合、我々は APSL のこの節に従えなくなってしまう。これは、オープンソースの定義に照らして資格を与えるべき権利も含め、ライセンスにより認められる全ての権利に制限を課してしまう。フリーソフトウェアのコミュニティはソフトウェアに対してとても長い寿命を見越しているから、APSL ライセンス下のソフトウェアがアップル社と関係なく生き長らえられるように、アップル社がこの条項を変更して我々と助け合うことを望む。インターネットからアクセス可能な個人のウェブサイトにポストしたり、バイナリのディストリビューションに対する指摘などの、修正を簡単に公開できるようにすることが必要なのだと思う。これなら我々のコミュニティの他のライセンスとも筋が通る。

APSL の 9.1 節において、真偽に関わらず、特許権侵害に関する主張があった場合には、侵害が証明されてなくても、アップル社が独自の判断でもって、 APSL 下の全てのコードの使用に関する我々の権利を終結できると記載されている。これは「オープンソース」と呼ぶには不適格な、IBM の Jikes のライセンスにおける、よく似た不快な部分から派生したものである。フリーソフトウェアコミュニティの人間が、 APSL ライセンス下のコードに修正を加えるためにつぎ込む投資をアップル社は配慮していただきたいものだ。独断的な終了条項があったのでは、我々は抗議する機会もなく、将来の日取りを見越した投資を突然失うことになってしまう。我々のコミュニティに受け入れられるライセンスではそうしたやり口での使用終結などありえない。もし特許権侵害の主張による使用終結が認められるとしたら、それは既存の特許を侵害すると考えられる特定のソースコードに明白に限定すべきである。これならフリーソフトウェアのコミュニティが「問題を避けて」、権利侵害のないバージョンを作成することが可能になる。APSL の作者は、見たところ特許の期限切れについて考えが及ばなかったようだ。我々は、問題となる特許の期限切れに伴い使用回復できるように、特許を侵害しているコードを保管できるようすべきだ。アップル社はまた、第三者が、APSL の元で我々の権利を失わせる特許権侵害の主張から、争いとなるコードを守ることが可能かどうか考慮してもよいだろう。

我々はまた、Eric Raymond が、誰より率先して、アップル社を我々のコミュニティに向い入れるべく、APSL を熱狂的に受け入れようと余りにも性急に飛び込んだことを遺憾に思う。彼は、十分に用意の出来ていないライセンスに対しオープンソースの称号を与えてしまった。我々は、この書簡で概説してみせた、APSL に関して幾つか単純な変更を依頼するのに加わるよう、エリックとフリーソフトウェア・コミュニティの他のメンバーに要請する。


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初出公開: 1999年04月05日、 最終更新日: 2000年05月28日
Contact: Bruce Perens
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)
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