クリエイティブ・コモンズの価値

著者: Lawrence Lessig

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Lawrence Lessig による CC Values の日本語訳である。

本文章の続きとして、「クリエイティブ・コモンズとWeb 2.0」が書かれている。


我々が CC を立ち上げてから四年の間に、インターネット、並びに世間のインターネットへの理解は劇的に変わった。2002年、メディアは「海賊行為」と呼ばれるものに取り付かれていた。今ではメディアはそれを「ユーザー作成コンテンツ(user-generated content)」と呼んでいる。我々が CC を立ち上げたまさにその頃、Wikipedia の項目数は10万を越えた。現在 Wikipedia は多様で並外れたことを可能にするインターネットの潜在能力の最も重要な証明になっている。

我々が CC を始めた頃、インターネットがどうなるか我々の誰にもまったく分からなかった。しかし、我々には皆夢があった。私の夢は、インターネットがアナログ文化の世界とは異なるものを提供することだった。多くの人は新しいテクノロジーがいかに古いビジネスを根本的に変えるかということで頭がいっぱいだったが、私は創作や相互作用の進化形を見たくてたまらなかった。iTunes は、タワーレコードがかなりよくやったことをさらにうまくやってのけている。しかし、1990年に(いかなる意味でも)存在しなかったもので、2010年にインターネットが生み出すものは何があるだろう?

そうした夢の一つが、Andy Raskin が2004年にクリエイティブ・コモンズについての「Business 2.0」の記事で述べた「共有経済(sharing economy)」である。「共有経済」は、従来からの営利経済とは異なる。それは単に人々をただで働かせるものではない。そうではなく、これこそが Wikipedia(やそれに先行するフリーソフトウェアやオープンソースソフトウェア)を支える経済である。それは YouTubeblip.tv において、創造性の多くの原動力となる経済なのだ。そういったサイトは「アマチュア」クリエイターの世界だが、ここでアマチュアというのもやはり、その作品が未熟という意味ではなく、お金のためでなく自分達がやっていることが好きでやっている人たちを指している。

この共有経済は、営利経済に取って代わることを目的とはしない。その目的はマドンナにただで歌うよう強いることではないのだ。そうでなく、マドンナ同様クリエイティブではあるが、営利経済とは異なる種類のコミュニティで創作を行いたい世界中の何百万もの人たちを可能にすることを目的にしている。Wikipedia を豊かなものしている編集者は、ブリタニカ百科事典に職を得ることができなかった人たちではない。そうでなく彼らは、それとは大変異なるクリエイターのコミュニティにおいて、異なる動機でコンテンツを生み出しているのだ。

根本的には、クリエイティブ・コモンズはこの共有経済を支援することを目的としている。我々の自由なツールは、クリエイターが創作を行いたいと思う条件を明示する簡単な方法を提供している。そしておそらくより重要なのは、これらの自由を明確かつ信頼できる形で示すことにより、彼らはその作品を共有し、それを踏まえた創作を行うのをためらっている可能性のある他の人たちを勇気付けていることだ。だから、例えば Public Library of Science は、すべての記事をユーザにそれらの記事を広範に共有する自由を提供する CC ライセンスの元で公開している。今では世界中の図書館や機関が、これらの記事を保管し、その地方で入手できるようになっている。CC ライセンスの信頼性がなければ、きっと色んな機関の弁護士がパニックになっているだろう。CC ライセンスはそうしたパニックを回避し、多くの人が作品を共有し、それを踏まえて創作を行う助けとなるのを促している。

次のチャレンジは、この共有経済が従来からの営利経済とどのように交わるのかを把握することである。タイム誌が CC ライセンスが付与された素晴らしい Flickr の写真を使いたいと思ったら何が起こるだろう? あるいは ccMixter でヒットした曲は、どのように商業市場に入り込んでいくのだろう?

CC は決して営利経済の一部にはならない。しかし、我々がこのクロスオーバーを可能にする役割を担うのは重要だと私は思う。別の選択肢としては、我々が十分過ぎるほど目の当たりにしている世界がある。「共有」のための砂場を作りはするが、その後その砂場の中で作られたすべての所有権を事実上主張する大企業である。これは私の見るところ、共有経済ではない。それは単なる小作制度だ。

鍵となるのは、インターネット上のクリエイターが望むように創作を行い、またその創造性を管理し続けることの両方に利用できる選択肢を構築することだ。それこそが、私がこれからの四年間目の当たりにするチャレンジである。そして我々はこれからの数週間世界中から届く最高レベルの CC 作品を吟味するので、あなた方はこのチャレンジがどうなるか目の当たりにすることになるだろう。


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初出公開: 2006年10月30日、 最終更新日: 2006年11月09日
著者: Lawrence Lessig
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)
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