本サイトの GIF ファイルを PNG ファイルに置き換えた


 タイトルを見て分かる人は僕が説明しなくても分かる話だと思うが、僕自身の意見も含めてまとめておきたい。内容の正確さを心がけたつもりだが、もし史実関係などで誤記があったら指摘して下さい。

 GIF、PNG まわりについての文章としては、「がんばれ!!ゲイツ君」における「夢のフォーマットの行末」あたりが最も分かり易い入門編になっている思う。筆者の認識も外崎則夫さんのそれとほぼ同じである(でも Mosaic が当初 GIF しかサポートしてなかったとは知らなかった。そうかあ、あれ全部 GIF 画像だったんだ)。

 ここで問題となっているのが、GIF 画像を作る上で欠かせない LZW 法(正確に書くと、Lempel Ziv Welch データ圧縮伸長テクノロジー、米国特許番号 4,558,302、日本国特許番号 2,123,602 および 2,610,084、「GIFとLZW圧縮伸長法の特許について」を参照のこと)の特許を米 Unisys 社が取得していたことだ。勿論企業が自社固有の技術に関し特許を申請し、取得した特許を最大限利用するのは正当な企業活動に違いない。


 しかし、である。ソフトウェア特許、つまりアルゴリズムや数式にまで特許の範囲を広げてしまった米国の特許方針自体が問題オオアリなのだ。日本の特許庁は論外として、米国にしてもソフトウェア特許を厳密に審査できる人間が少なく、スタイルシート関連の特許を今年マイクロソフトが取得してしまった現状を見てもそれは明らかである。

 その現状を見て、「急いで私のHello Worldプログラムの特許を取りにいかなければならない」と書いた人がいるが、もっともな話だ。かくいう当方もバブルソートとクイックソートアルゴリズムで特許申請中なので同じこと考えた人はあしからず・・・というのは勿論嘘なのだが、当方も会社で部署に送られてくる特許調査資料などに目を通した時期があって、これが認められたら結構とんでもないことになるのではと不安になったり、これって確か俺が生まれた頃には既にあった方式だろ、とツッコミを入れたくなったりしたものだ。「特許英雄列伝」なんか見て大笑いしていた頃が懐かしいよまったく。


 余談であるが、実際は当方もこうした悪しき流れに荷担している一人なのだ。会社で特許を書くように義務づけられ、実際に会社の特許として申請している。当方はプログラマーとして一応生計を立てている人間なので当然「ソフトウェア特許」を書くことも多い。これが実は自分達の首も絞めることになる、という話は GNU「非フリー/フリーのソフトウェアを書く権利の保護を促進しよう」、ソフトウェア特許の問題点についてもっと詳しく知りたい場合は League for Programming FreedomGIF 問題に関する特集ページもある)に詳しい。LPF に関しては、かの Think GNU の第三部「プログラミング自由連盟の関連論文と記事」において、ソフトウェア特許に関する主張を日本語で読むことができる。

 以上の悪しき流れに抗し、BSD 界の大物である荻野”いとじゅん”純一郎さんは一度会社を辞めた過去があるのだが、それについて書かれた「少年(?)は荒野を目指す」は、ソフトウェア特許自体の問題、並びにそれに関わる企業とハッカーとしての個人の関係をざっくばらんに扱った素晴らしい文章である。

 悲しいかな、自分は荻野氏の主張には賛成するが、氏のように信念を貫くことはできない。それは単純に僕が独り立ちして食えるほどのスキルのある技術者でないからだ。


 Unisys と GIF の話に戻ろう。Unisys は 99 年の今になって LZW 法のライセンス料を求め出したのではない。94 年に GIF フォーマットを設計、公開した CompuServe 社に対し Unisys が初めて特許を主張し、94 年 6 月に両社で特許料支払いの合意が成立した後、Unisys は GIF 画像を扱う企業にライセンス料を請求しだしたのだ。

 GIF 規格が十分に広まったところで特許を主張し出したことを外崎則夫さんは、

これではヒットした芸能人の娘の親だと言って後から名乗り出る飲んだくれのおやじのようなもんです。

 と書いている。Unisys の姿勢はビジネス手法としては古典的なもの(サブマリン特許、というらしい)であるともいえるから、外崎さんの意見は少しナイーブかな、とは正直思う。

 ソフトウェア特許そのものを除けば、その後の Unisys の変節こそが問題なのだ。


 Unisys 社は 1995 年以下のように言明している。

The company does not require licensing, or fees to be paid for non-commercial, non-profit offerings on the Internet, including "Freeware".

 それが今年 99 年 9 月になってどう変わったのか。95年の段階ではライセンス料を求めない、としていたフリーウェアに加え、ライセンス料を払なってない作者によるソフトウェアを利用して作成した GIF 画像を置いたウェブサイトにもライセンス料を要求し出したのだ。そしてそのライセンス料が何と 5000 ドル! 特許方針の転換も問題だが、利用者であるウェブマスターからも金を巻き上げようとする姿勢は許せない。マイクロソフト社員をコンサルタントにでも雇ったのだろうか。

 これまでも Unisys の特許を苦々しく思っていたインターネット・コミュニティは黙ってはいなかった。11 月 5 日が Burn All GIFs Day に制定され、ウェブにおける GIF の使用を止めるよう呼びかけられた。

 しかし、GIF は WWW に完全に浸透した画像形式である。代替となる受け皿はあるのだろうか。あるのである。それこそ Unisys が特許を主張するようになった後すぐから。言うまでもなくそれが PNG である。


 GIF に対する PNG の画像フォーマットとしての優位性は言うまでもない。話の流れからも想像できる通り、パテントフリーである。PNG の長所の細目についてはここでは述べないが、詳しく知りたい方は、公式サイト(ちょっと古い情報多し)の他にも、「Let's PNG」「PNG利用術」など日本語で解説しているサイトが複数ある。また、もっと PNG の仕様自体に踏み込みたい方は、PNG の仕様書の日本語訳もある。ウェブの総本山である W3C だって 96 年 10 月というかなり以前から PNG を推奨していたのだ。

 それなのにどうして未だに Unisys が偉そうに横暴かますことができるのか。問題点は外崎さんの文章でも的確に分析されているし(やっぱアニメーションができないのは実用面で痛いと思う)、もっと厳しい意見としては、Jeffrey Veen による「PNGになにがおこったのか?」がある。


 そして当サイトの話になる。当サイトはご覧の通り文章系に分類される。というか、文章ばっかりなのだが、それでも画像が何枚かあり、この文章を書く時点で 7 枚 GIF 画像が置かれている。Unisys が場末の当サイトをターゲットにするのは先の話だろうが、抗議の意味もこめ、GIF を全て PNG 画像に変換し、さしかえることにした。変換作業は、フリーソフト gif2png も市販の画像処理ソフトも使わなかった。最も一般的な画像ビューワ GV を使って横着して作成した(これこそハッカー精神! というのはこじつけ)。

 しかし、それを実行に移すまで結構悩んだんですね、実は。何故なら当方が普段使用しているブラウザは、Netscape Navigator 3.03J(以下 Windows 環境においての話)だからだ。


 これは標準では PNG を読み込めない。当方の PC には QuickTime 3.0 を入れているのでプラグインとして PNG 画像をブラウザ上で読み込むことは可能であるが、それでも標準ではやはり PNG を表示できない。そして、当方はブラウザを 4.0 系にバージョンアップするつもりは今のところないのだ(IE は論外)。その理由を説明するのは難しい。NN3 に惚れ込んでいるのは間違いないし、普段必要がなければ Java、Java Script、そして画像表示もオフにしてウェブサーフィンをする当方としては、それで十分、とも言える。

 サイト作成者が表示できない形式を使ってどうするのか、という気持ちもあった。また当然ながら僕と同じく 3.0 系以下のブラウザを使用している環境では PNG 画像が標準では読み込めない(<EMBED>タグを使う、などの専門的な話はここではパス)。環境に依存しないで閲覧可能なコンテンツを提供する、というポリシーを掲げる当方としてはちょっと心苦しい。


 ところで思うのだが、フリーソフトウェア、オープンソースの人とか結構あっけなく PNG に切り替えているけど、そうしたユーザの気持ちは考えないのだろうか。古い 486 マシンでも Linux を入れてサーバーにできるよ、などと片方では言いながら、古いバージョンのブラウザを使っている人間は眼中なし、という姿勢で本当に良いのだろうか。

 勿論これは言いがかりなのだろう。ブラウザ作っている連中の方が罪は重いのは間違いない。Jeffrey Veen の文章を読むと、Mac 版の IE4.5 でも PNG は読めないらしいし、故 Netscape にしても、PNG 読み込みプラグインとして、PNG Live などという半年以上前からリンク先が切れたツールをダウンロードさせようという怠惰ぶり。それじゃ普及しないわな。


 Unisys の特許は 2003 年まで有効だ。僕はその期限切れまで待つことはできないので(それにその頃にはこのページ自体ないだろう)、やはり当サイト内の GIF ファイルを PNG に変換し、置き換えることに決めた。Unisys が提供するLZW情報の日本語訳を見ても、日本ユニシスが設けた FAQ を読んでもどうも先行きは明るくないようだし。

 件の Burn All GIFs Day サイトでは "Don't flame Unisys" と訴えているが、これは余りにも寛大すぎる反応だ。実際の抗議活動も路上で物を燃やすのは違法だから、と比較的おとなしいものだったらしい。そんなんじゃなくて、GIF を通り越して Unisys のビル自体を燃やしちまえばいいのに、とは思ってもとても書けないので、最後に Jeffrey Veen の文章を引用して、Unisys に対する最大限の怒りを表明しておきたい。

いずれにせよ、この問題における真の敗者は、Unisys社ということになる。同社が証明したのは、デファクト・スタンダードとなったものからお金を得ようとすると、逆にウェブ上では無能扱いされるということだ。


[後記]:
 リサーチに時間をかけ、それをちゃんと整理して論理構成し、適度に感情移入しながら書く、という至極ストレートな方法論を発見できた文章。これだと充実したものができる代わりにひどく疲弊するのだが。

 ChangeLog の方から、ソフトウェア特許だけをやり玉にあげるのはおかしいのではないか、という指摘をいただいた。確かに最も問題なのはソフトウェア特許審査の杜撰さ(非公開で行われる米国は言うまでもなく、日本もレビューのための障壁が高いので、新規性のないソフトウェア技術が特許になりうる)と不適切な運用には違いない。

 「ゲイツ君」でもこの問題の続編が書かれたのでそちらも参照いただきたい。INTERNET Watch においては特集も組まれた。そこにこの文章が紹介されてなかったのには正直がっかりした。


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初出公開: 1999年11月15日、 最終更新日: 2003年03月02日
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