著者: Edward W. Felten
日本語訳: yomoyomo
以下の文章は、Edward W. Felten による 2006 Predictions Scorecard の日本語訳であり、2006年を占うを受けたものである。
例年通り、前年に行った予測を再検討することで新年を始めることにする。2005年が驚くほど的確だったので、我々は2006年の予測をするにあたり、より予測を具体的にすることでリスクを多く取ることにした。見ていくが、その結果は……予想通りだった。
以下、我々の2006年予測はイタリック体、その判定は通常の字体である。
(1) DRM 技術は広範囲に及ぶ権利侵害を防ぎきれないままである。それと関連して、豚は空を飛べないままである。
我々は毎年これを予測に入れているのだけど、いつだって正しい。この予測は当たり前すぎて、結果にカウントするのはほぼ不公平である。
判定:当たり。
(2) RIAA(全米レコード協会)は末端ユーザを相手取った訴訟をこっそり減らす。
判定:当たり。
(3) 著作権者は Grokster に対する勝訴が P2P の問題を解決しなかったことに気付き、P2P システムに対する攻撃を技術的なものに切り替える。
彼らも Grokster 裁判が問題を解決しないことは確かに気付いた。が、現実に技術的な対抗手段を重視することはなかった。彼らは一貫した反 P2P 戦略を持っていないようだ。
判定:ほぼ外れ。
(4) 電子透かしベースの DRM がむなしい復活を遂げるが、それが根本的に解決にならないのに変わりはない。
復活は、初めから使えなかった CGMS-A + VEIL を後押しする、今は亡きアナログホール法案に限られていた。電子透かしはやはりコピー防止には使えないように見える。
判定:ほぼ外れ。
(5) アップルの市場支配力に不満を募らせ、音楽産業はマイクロソフトに擦り寄ろうとする。マイクロソフトの市場支配力を恐れ、映画産業はワシントンに擦り寄ろうとする。
音楽産業は実際、アップルの市場支配力に不満を募らせた。しかし、彼らはマイクロソフトに対して有利に交渉を進め、Zune の最も興味深い機能に足枷を課した。映画産業は確かにワシントンに擦り寄ったが、それはいつもと同じことで、おそらくはマイクロソフトを恐れたためではない。
判定:ほぼ外れ。
(6) Google Book Search に関する訴訟は和解する。その数ヶ月後には、みんないったい何にそんなに大騒ぎしたのか分からなくなる。
和解はなかったが、Book Search に関する訴訟は間違いなく終わりに近づいている。
判定:ほぼ外れ。
(7) 大きなセキュリティ、プライバシー脆弱性が、少なくとも一つ以上の主要な DRM システムから発見される。
判定:外れ。
(8) 著作権問題は、合衆国議会で膠着状態のままである。
これも簡単なヤツだ。
判定:当たり。
(9) 技術面の国家競争力に関する議論が、ワシントンにおける政策論議においてますます力を増す。
これは起こらなかった。我々は中間選挙で経済繁栄がよりフォーカスされるだろうと考えたのだが、実際の選挙の争点は別だった。
判定:ほぼ外れ。
(10) 計画的な非互換性が、業界の評論家により計画的陳腐化と結び付けて語られる。
判定:ほぼ外れ。
(11) 特許制度を改正する必要があるということでは広範に合意するが、その改正の意義についてはほとんど合意が取れない。
その主要な政策課は予想通り、情報技術とバイオ技術部門だった。
判定:当たり。
(12) セキュリティ問題の関心がデスクトップ、つまりサイバー犯罪ツールのボットネットの役割に移る。
こうなるはずだったが、コメンテータは大方この問題の増大する重要性を見逃した。ボットネットはスパム復活に関係している。
判定:ほぼ外れ。
(13) インターネットは欠陥があるので再設計する必要があると主張するのがトレンドになる。このミームは、ろくでもない公共政策を薦める人たちに特に人気を博す。
ネットの中立性を巡る論争の中でこれに関する議論に少し出てはきたが、このトレンドは具体化しなかった。
判定:ほぼ外れ。
(14) 無線プロバイダの「塀で囲まれた庭」の塀はますます弱くなる。プロバイダはどこが最初にそのネットワークを開放するかを気にして牽制しあう。
判定:ほぼ当たり。
(15) プッシュ技術(PointCast や Windows Active Desktop を覚えてる?)が復活するが、今度はマルチメディアで、おそらく携帯機器で利用される。かつて好きでなかったのなら、やはり人々はそれを好まない。
プッシュ技術はテレビのモデルをネットに持ち込もうとしたものだから、テレビがネットに進出するにつれ、それはよりプッシュ的になるはずだが、少なくともまだ起こっていない。
判定:外れ。
(16) 放送局は無料テレビチャンネルのインターネットでの同時放送に乗り出す。ネットを介して認可されたビデオを配給するそれ以外の試みは期待を裏切る。
判定:ほぼ当たり。
(17) 次世代 DVD と謳われる HD-DVD とブルーレイは、ますます次世代レーザーディスクの様相を強める。
まだ結論は出ていないが、この予測はここまでのところ適切なようだ。
判定:ほぼ当たり。
(18) 「デジタルホーム」製品は、企業が消費者に彼らが本当にほしいものを進んで提供しないか、あるいは企業が消費者が本当にほしいものが分からないために完全に失敗する。
業界誌の販売促進の試みを別とすれば、我々はデジタルホームについてあまり聞かなかった。
判定:ほぼ当たり。
(19) 名の通ったデータベースベンダが、オープンソースとの競争に負けて倒産する。
判定:外れ。
(20) 二つ以上の著名なデスクトップアプリケーションが、(電子メールが Gmail でそうなったように)Ajax/サーバベースデザインに移行する。Office はそれにはあたらない。
この方向にトレンドになりそうに見えたが、私はこれを推し進めるメジャーなアプリを二つ挙げることができない。しかし、Google はこのカテゴリーに Office ライクな製品を確かに導入した。
判定:ほぼ外れ。
(21) 各種ネットワークトラフィックの識別を妨げる技術が、Google や Yahoo などのアプリケーションサービスプロバイダに一部支持され、人気を得る。
こうした技術は、おそらくはネット中立性を巡る政策の行き詰まりのため発展しなかった。
判定:外れ。
(22) ソーシャルネットワーキングサービスは、本当に使えるものに脱皮する。
この予測は類別するのが難しい。「ソーシャルネットワーキング」の意味が、2006年の間に変わったからだ。今ではその言葉は、主にウェブページのホスティングサービスである MySpace や Facebook のようなサイトを指している。それは有用だし人気のある機能だ。しかし、脱皮した技術というより用語の話である。
判定:ほぼ当たり(と私は思う)。
(23) 完全に仮想世界でおきた犯罪行為に対し、アメリカで重罪の有罪判決が下される。
予測当時、この予測は具体性が欠けるというコメントがあった。どう解釈しようと外れだからどっちでもいいのだけど。
判定:外れ。
2006年予測の全体の採点表:当たり4個、ほぼ当たり5個、ほぼ外れ9個、外れ5個。当たりより外れのほうが多いが、辛うじて我々のリスクを取る戦略が機能していることが分かる。
2007年予測をお待ちください(訳注:これも訳しました)。