僕らのトラウマとなったテレビ番組達
ベンジャミン(憂い人、以下ベ)と yomoyomo(技術者の端くれ、以下Y)の与太話。2002年3月の彼岸過ぎ、長崎の居酒屋にて(この後、記憶が飛ぶほど、しこたま飲むとは予想だにしていない)。
Y:僕らももうすぐで30になるんだけど、最近はどんな感じだい?
ベ:体型以外変わることはないなあ。
Y:まあこうして飲んべえになってしまうなんて、10代の頃思ってなかったな。
ベ:イヤ、それよりも驚いたのはさあ、自分の耳を疑うってことが実際にあってね。
Y:耳を疑うって?
ベ:この前さあ、夜中にトラック運転してて、ラヂヲを流してたんだ。深夜ラヂヲ特急便とかだったけなあ?
Y:NHKのFMのやつだな。
ベ:そしたら聞こえてきた話が、コラムみたいな感じで進んで、東京はカラス対策で大変ですね、っていう内容だったんだ。
Y:石原慎太郎がカラス嫌いとかで結構取り上げられる話だよね。
ベ:そうそう、カラスがゴミを荒らしたり、人を襲ったりで大変だっていうやつ。そんな話だったと思うけど、そんな世情話の後の感想でMCが言ったんだよ。
Y:MC? アナウンサーだよな。
ベ:そう、そのMCがさ、「最近のカラス騒動は深刻で、もう童謡のように『カラスの勝手でしょ』、というような、のんびりした状態ではないですね。」って喋ったんだよ。
Y:カラスの勝手でしょ? 童謡?
ベ:そうなんだ。童謡では、「カラスが鳴くのは山に七つの子が・・・」とかだよな。「童謡のカラスの勝手でしょ」ってコメントしてるのを聞いて、ラヂヲ相手に「それは、ドリフだろ!!」って、つっこんでしまった。
Y:ラヂヲ特急便で「童謡のカラスの勝手でしょ」って、本当かー?
ベ:本当、本当、だから耳を疑ったんだよ。話ししてる方も、ジョークで言ってるんじゃなかったんだよ。さも、世情に詳しそうにさあ、「もう童謡のようにカラスの勝手でしょとは・・・」ってな。
Y:それが本当だったら、確かに情けないな。
ベ:確か、NHKなんだよ。それがそんな事言うもんだからさあ。
Y:うーん、浅い情報ばかりが流通しすぎたせいで、オリジナルが何だか、ちゃんとしたことがわからなくなっているんだな。中途半端な知識ってのは、却って命取りということか。
ベ:オリジナルも何も、ドリフのギャグと童謡の区別ぐらい当然だろ!
Y:確かに、アナウンサーとしては恥ずかしいな。
ベ:今さあ、つまんない情報ばかりで、オリジナルとか何とかよりも、リアリティーがないんだよ。昔のTVとかさ、何かリアルな怖さがあったんだよね。
Y:TVのリアリティー?
ベ:知ってるかなあ、昔さあ、平気で「死刑執行48時間前」とか、そんなドラマが平気でゴールデンとか、土曜のお昼に放送してたね。ああいうドラマには、幼心に現実社会の怖さを感じてたよ。
Y:今の青少年保護とかの観点とかからすれば、よっぽどえげつない内容のドラマもあったな、実際。たけしが大久保清を演じたドラマもあったしな。
ベ:西田敏行が主役だったと思うけど、確か婦女暴行殺人犯が、死刑されるまでの話なんだ。しかも絞首刑の死刑のシーンは、現実みたいに失禁なんかも描写されてたんだ。
Y:覚えてないけど、そんなドラマがあったのか? でも「現実みたい」って、お前だって死刑を現実には見たことないだろ!
ベ:いや死刑のシーンが残酷だったとかじゃなくてさ、何も知らずに面会に来る年老いた母親が、「既に刑は執行されました」と言われ、呆然として骨壺を受け取らされるんだよ。死刑のシーンも焼き付いてるけど、そういうリアルな描写が印象的で忘れられないんだ。だから、つりバカのハマちゃん見ても、死刑される池中源太が頭に蘇ってしまうんだ。
Y:池中源太は違うけど、今の規制に縛られたドラマから考えると、随分猥雑なものを見て育ってきたよな、俺達。
ベ:いつからなんだろな、描写がエグイからという理由で規制し始めたのは、きっと、トレンディドラマしか見たことない奴だったら、当時のTV一週間見たら、サイケになってるよ。
Y:なんでサイケやねん。サイコだろが。
ベ:だって、俺らが小学校の頃、街角の映画ポスターにはさ、普通に「食人族」とかの映画の写真があったんだぜ。ほら、全身が杭で打ち抜かれてたやつとか、アメリカの死刑映画の写真とかね。あれ見てた世代の方が、サイコは少ないな。
Y:サイコが少ないかともかくとして、今考えれば恐ろしい描写多かったな。俺はさあ、ゾンビの映画のテレビCMに本気で恐怖したのを覚えてるよ。
ベ:ゾンビ?じゃあ、「スリラー」のビデオも怖かったっていうのか?
Y:ちがうちがう、ゾンビの映画が怖いとかじゃないんだ。映画としてみたら怖くなかったのかもしれんけど、テレビCMでエレベータが扉が開いたらゾンビが集団で襲ってくるシーンがあって、それが目に焼き付いてるんだな。そういえば、俺達の世代でトラウマになっている映画は、なんといっても「震える舌」だよな。
ベ:「震える舌」…ああ、あの破傷風の映画ね。あれも怖かった。何て言うか、13日のジェイソン見て夜が怖いと思ったことより、そういう現実にある怖さの方がリアルだった。
Y:病室の外で大きな音がすると痙攣が起きて、パニックになるんだよな。
ベ:しーんとした病室の外で、悪気のない別の子供が走ってきて、ワゴンの道具をひっくり返してしまうんだよ。
Y:そもそもあの映画、何を目的にしていたわけ? 破傷風の啓蒙にしては怖すぎるぞ、あれ。確かテレビで一度だけ放送されたんだけど、俺の世代、みんなあれ観てるんだよ。で、トラウマになってる。
ベ:車椅子の障害者を題材にした、山田太一のNHKドラマ(男たちの旅路 第4部「第三話 車輪の一歩」)も印象的だった。あの顔の長い斉藤洋介っていう役者が車椅子の障害者なんだけど、中途半端に偽善的なドラマじゃなかったんだ。
Y:知らないなあ、そのドラマ。サイコとはえらく離れた話だな。
ベ:障害者がすねたり、清水健太郎と岸本加世子を脅したりしながら仲良くなったり、同じ車椅子障害者の女性の危機を助けてあげられないことに打ちのめされたりさ。
Y:清水健太郎? 古そうだな。
ベ:鶴田浩二も出てたな。再放送もあったんじゃないか。最後の方ではさ、車椅子の斉藤洋介が、「母ちゃん、俺一度でいいから、セックスしたいなあ。トルコ風呂へ行ってみたいな」って呟いてさ、母親は戸惑いながらも安い背広を新調してくれて、財布にも数万入れてあげて送り出してやるんだよ。そいでトルコへ行ってさ、帰ってきた玄関で頭をかきながら照れたそぶりをしてさ、母親も「いやだねー、この子は、にやにやしたりして」って、嬉し恥ずかしそうに言うんだけど、突然大泣きして、結局何処のトルコでも断られて冷たくあしらわれてたことがわかるんだよ。サイコなトラウマとは違うけど、そのドラマの印象が強すぎてさ、「ビューティフル・ライフ」はリカコの旦那以外は、何かおもしろくなかったな。
Y:そんな昔に障害者の性を扱ったドラマがあったというのは驚きだけど、俺はどっちも見てないから良く分からんわ(ベンジャミンの饒舌が長いので、やや疎ましい)。
ベ:今の温泉サスペンス見てさ、「温泉地怖い」とか思う子供はいないだろ。死刑自体の全体的な侘びしさが怖かったり、ごく普通の砂遊びで「破傷風」にかかったらどうしようとか、怯えたよ。最近のドラマは、不倫か浮気がらみしかネタがないもんな。脚本家の願望だけでさ、想像力も独創性も何も無いよ。
Y:いや、そんなドラマは実際数字が取れてないよ。でも、最近見たドラマって、「TRICK2」は別格とすると、「恋のチカラ」くらいかなぁ。それを女友達に話したら、深津絵里のホクロには我慢ならないと文句言われたが。
ベ:深津きょんには、ドロドロした、つまんない刃傷沙汰ドラマには出て欲しくないな。「ハル」とか、案外おもしろかったなあ。
Y:俺の場合は、堤真一が好きみたいなんだが。しかし、君はサイコではないかも知れんが、一般受けしないドラマばかり好きそうで、その辺り、違う意味でどこかオカシイのかもしれんが。
ベ:悪かったな。でもな、ネプ投げを規制する意義があるなら、ゴールデンの素人浮気話や、整形番組の方が、よっぽど教育上よろしくないぞ。家族で見られるのか、あんな番組? 「お父さん、W不倫て何?」て聞かれたら、愛娘にどうやって説明できるんだ? それより、ドリフのたわいないギャグでヌードが出た瞬間にさ、家族の誰かが、とっさにチャンネル変える光景の方がよっぽど健全だったぞ。しかもあの頃リモコンじゃなかったから、わざわざテレビのチャンネルに誰かが手を伸ばすんだよ。あの一瞬の沈黙は不思議だったなあ。
Y:まあ、ネプ投げとお前に愛娘がいたかは別として、俺は「しりとり侍」が純粋にゲームとして好きだったので、あれがなくなったのは悲しかった。お前みたいにあんまりTVを見てるわけじゃないから、詳しくないけど、なんかお前との話にしては、えらく教育的な話になったな。
ベ:トゥナイト2が、終わってしまうんだよ!! 乱一世がもう見れない。
Y:はあー(ため息)。
対談後記(2002年4月、これまた長崎の居酒屋にて):
Y:で、実際トゥナイト2は終わったのだけど、今回の対談は実は初の試みで、ベンジャミンが起こした対談原稿に僕が手を加える形で仕上げられた、という捏造対談なのです。
ベ:でも、実際に君とした会話がほぼ基になっているから捏造度は足らないけどね。
Y:まあそうだけど、ようやくこうした形で対談の最新作を更新できてよかった。ありがとうございました。
ベ:でも、この対談のために調べものをして初めて知った話もあったよ。食人族がヤラセだったというのはちょっとショックだったな。あと「震える舌」のキャッチコピーが「悪魔と旅に出た」というのもすごいよな。ホントただのホラー映画じゃねーか。
Y:これは何度も書いていることだけど、俺はウェブページを作ると決めたとき、まずお前に声をかけたんだよね。でも、手前はきっぱりそれを断りやがった。
ベ:いやー、まあそういうこともあったね。
Y:(ベンジャミンをしばく)何度も文章を書いてくれとお願いしたのに何だかんだと言い訳つけやがって断りやがって(ベンジャミンをしばく)。それなら参加しやすいものなら、ということで対談をやろうと何度も何度もお願いしたのにそれもなんだかんだと…(ベンジャミンをしばく)。
ベ:いや、実はそれには俺も驚いてさ。
Y:驚くって、何を?
ベ:俺の中では、対談の中心人物は「俺」だったんだよね。でも、この間君のページを見直したら、俺は二回しか登場してなかったんだよな。これには本当に驚いてさ、今回の捏造対談を書いた、というわけよ。
Y:て、てっ、てめー! 何か中心だ、この野郎。お前が断ったんだろが。お前が、お前が…(本格的にベンジャミンをボコる)。