Violence of Truth
7月19日午後9時半頃、築町パーキングエリア脇。机が置かれ、そこにジュース、菓子、手紙などがぎっしりと供えられ、赤い風船が揺れている。この時間でも、数人の人達が代わる代わる立ち寄り、机を眺めている。この日は、花火大会のようなものがあったので人通りも多かったが、それを割り引いてもこの場所で犯行があったことに不可解さを感じた。
ベンジャミン(以下、ベ)がやってきて、机の前で手を合わせ出す。彼は長く手を合わせたままで頭を上げない。yomoyomo(以下、Y)は手持ちぶさたになって、何とはなしに天を仰いだ。駐車場から下を見下ろす人達と目があった。我々は何をやっているんだ?
Y:デジカメでここの画像を撮っておきたいのだが。
ベ:それは許されないだろう。
Y:ダメか?
ベ:長崎の人間としてそれは許されない。ネットに流すのか?
Y:いやぁ…
ベ:今だってネットに流れているじゃないか。やらなくてもいいだろう。[註1]
その後、居酒屋にて。予めお断りしておくが、以下の内容は対談者の記憶に基づく会話であり、そこに書かれてあることが事実である保証はまったくない。くれぐれも鵜呑みにしないようお願いしたい。
Y:それでは始めようか。一応前提条件として、今回の長崎の男児誘拐殺人事件について、補導された12歳の少年が単独犯でやった、まだ容疑者なんだが、彼が犯人だと考えるということで。まあ、何せこの事件が起きたのは俺らのホームグランドであって――
ベ:マイクのテスト中、マイクのテスト中…
Y:ちゃんと喋れよ、お前。まあ、事件のニュースを聞いて、俺は犯人は二十歳過ぎだと思ったんだけど、お前は始めから中学生だと断言してたんだよな。なんでそう思ったの?
ベ:ようこそ、クラリス。(yomoyomo、ベンジャミンをしばく)行動範囲を考えると、それしかない。連れ去り現場のヤマダ電機は、あそこは仕事柄良く知っているんだけど、俺の校区近くでもあって…
Y:じゃあ、自分の中学時代を鑑みて、中学生がやったと思ったわけ?
ベ:んなわけねーだろ。違うんだよ、大人が連れ去ったとしたらあそこでは目立つんだ。目立たずにしかも誰も違和感を持たずに店を出たことを考えると、子どもにしかできない。しかし、小学生はさすがにやんないだろ。高校生になると相手も警戒して付いていかない。それで中学生だろうな、と。そして校区からN中学(の生徒)だろうとも思った。
Y:そこまで思ったか。俺がS中学(の生徒)かという情報をお前に尋ねたら否定してたもんな。N中の雰囲気ってどうなの?
ベ:俺も今は知らんが、昔は悪かったね。現在もヤンキーが居るとか居ないとかではなくて、こういうイビツな事件を引き起こす人物が住んでそうな地域を考えたら、あの地域しかないだろうな、とね。まあ、レクターと呼んでくれ。
Y:それはどうでもいいんだけど、犯人についていろいろ理屈をこねる人達がいるね。例えば酒鬼薔薇を引き合いに出す人もいて、俺はどうも違うと思うんだが。同じ中学生でも、あれのような快楽殺人とは違うと思うんだが。高まった性欲が第一にあるというか…
ベ:いや、あれは快楽殺人だよ。報道で流れてない情報とかいくらでもあるんだから。大体犯人は、ハサミで被害者の下半身を傷つけてんだろう。
Y:ああ…×××の×を切ったという。あの話は本当なのか? 確かに、犯人は被害者が騒いだから慌てて突き落としたとか言ってたと思うけど、柵の高さを考えれば反射的に落とせるわけはないんだし。
ベ:罪悪感もなしにやったんだよ。
Y:それは君とは意見がちゃうな。だって自分の12歳のときを考えてみろよ。罪悪感ぐらいあったろうよ。
ベ:いや、あれは芽生えてないね。12歳なりの罪悪感持ってたら、あの年齢でこんな事件起こせない。ある程度の年齢を過ぎると、欲望が罪悪感を越えすぎた奴が性的犯罪を犯したりするけどさ、12歳相応の罪悪感を認識してたら、欲望を圧倒的に罪悪感が押さえ込む年代だろ。罪悪感まだ無いね。
Y:うーん、俺は罪悪感がないとは思わない。また自分が12歳のとき、罪悪感が性的欲求を圧倒的に上回っていたとも思わないが。ただ酒鬼薔薇の事件など、漏れ伝わってくる犯人の言葉とか見るに明らかに自分たちとは違うなと思ったんだけど、今回の犯人は一応反省の言葉などを言っていて、同じ快楽殺人なら逆にそういうのが恐い感じもするが。
ベ:恐くなって(犯行現場から)逃げたとか言っているんだけど、そういう人間が裸で突き落とされた被害者のところまで行って、その脇に服を畳んで置くか?
Y:えっ、あれ屋上じゃなくて、落とされた被害者の隣に置いたの?[註2]
ベ:そう。下手したら酒鬼薔薇よりタチが悪い。犯人は今はまださ、謝れば許してもらえるとしか思っていないよ。
Y:俺は快楽殺人とは思わなかったから、自分に当てはめて考えてみたんだな。俺の場合、はじめて射精したのが12歳のときで…夢精だったんだが、中学一年の夏には規則正しくオナニーするようになったという…
ベ:あのー、そういう話をお店の中で大声でされても…。[註3](話題を変えて)さっき現場にいたわけだけど、あれテレビで見るより高いでしょう。あれから落とされたわけだよ。
Y:報道では手すりの向こうに足跡があったとか言ってなかったかな。つまり、そこに被害者を立たせたわけで。
ベ:柵の向こう側に立たせている時点で、あわてて突き落としたなんて信じられるか。泣き声を聞いた人も何人かいたみたいなんだけどね。
Y:事件が起きたのは何時ぐらいだったっけ?
ベ:夜の9時ぐらいかな?
Y:俺らがあそこにいたぐらいじゃない。今日は例外的に人が多いというのがあるし、最近じゃ、長崎で夜飲みに出ても驚くぐらい人が少ないよなという話をお前としたことがあるけど、それでもあそこで気付かないかね? 一応繁華街のすぐ近くだよ。
ベ:泣き声とかさ、実際は幾つかの情報は警察も把握してただろ。ただね、自分が12歳のときだったらと考えて、こういう事件が思いつかないとか言っている時点でどうしようもないと思う。
Y:どういうこと?
ベ:当然12歳でも殺人はできるわけだし。犯人が12歳だから驚愕したとか言ったってさ、それを想像すらできていないほうが馬鹿じゃないの? まさか普通の子どもが! なんて言ったてさ、普通じゃないこういう奴は一定の割合で居るだろうし、普通の子に失礼だ。俺は犯人の年齢聞いての驚きはなかったし、それよりも今回の事件の本質は、犯人側がどうじゃなくて、それが4歳の幼児にそれが向かったということだから。…俺なんか、すごく子供好きなんだけど。
Y:何だ、お前子供好きだったのか。俺は子供嫌いだけど。
ベ:泣いている子供を見ると、それこそ、いない・いない・バーをやるぐらい…
Y:うゎー。俺なんか、うるせーとしか思わんが(ベンジャミン、冷たい視線)。以前女性と歩いていて、その女性がすれ違った幼児にいきなり愛想を振り撒きだしたことがあるんだが、あれ女性はそれが男性に受けがいいぐらいに思っているのかね。寒々しい気持ちになったものだが。
ベ:俺には、犯人が12歳だろうが精神的に病んでいようが、子供にああいうことをしたというのが許せない。
Y:ただね、向かう対象は俺らとは違うんだけど、当時のすごく性欲が高まった状態を思い出すと、それ自体はすごく分かるんだよ。ただ家庭環境とかに原因を求めるのはどうなんだろう。
ベ:あれは両親が喧嘩していてむしゃくしゃして外に出てやったというという話もあるね。あれ犯人の家族にもビデオの面通しやってるんだろう。それで家族は認めていたんだよね。[註4]自首させるチャンスがあったのに、犯人の家族は息子を学校に送り出してんだから。だから警察は慌てて同級生の前だけど逮捕したんだろう。犯人の親もおかしいんだよ。
Y:あれそうなの? 被害者の親にビデオを確認させたというのは知っていたが。
ベ:だからさあ、同級生の目前で逮捕なんて本当なら大騒ぎになるところをマスコミもあまり騒がないんだよ。マスコミはもう犯人が分かっていて、その家の前で張ってたわけ。マスコミも警察も親が息子を連れてくると思いきや、普段通り学校に送り出したんだよ。だから慌てて…
Y:でもまあ、余りに想定外の出来事に思考停止して普段通りのルーチンをこなしてしまうというのもありえないことじゃないけど。
ベ:ただ報道でバカだと思ったのはさ、事件直後に「事件現場が長崎県警本部のすぐ近くですが、これは警察に対する挑戦でしょうか」とか言ってたとこがあって、もうバカかと。あそこに県警本部があること、長崎の人間でもあんまり知らないっての。県警本部と警察署の区別がついてない。
Y:あれ? 公会堂の傍にあるのは?
ベ:あれは長崎署。逆にさ、マスコミがそう報道するのは、酒鬼薔薇事件の初期報道にあった「不審車のブルーバード」の話を思い出して、何か正確な情報を流しちゃいけない裏があるのかなと思ったぐらい。
Y:マスコミもさ、勝手にストーリーを作り上げちゃうんだよね。こういう犯人がこういう背景で殺人を犯したという…今回はそれが外れた感じがするけど。
ベ:当たることってあったか? 大体警察にしても、靴跡が判明した初期の段階から中学生がやったというのは分かってたわけで、逮捕前夜まで市民に情報を求めるホットラインを設置しました、としつこく報道させていたのは、逆にそこらへんを隠しときたい目的もあったんだろうな。
Y:しかしまあ、今回犯人逮捕の決め手となった浜の町アーケードのビデオ画像だけど、俺なんか去年の四月に、深夜あそこで放送禁止用語を大声で連呼したことがあったわけで[註5]、それまで記録されていたのかとはじめビビったな。
ベ:運用は事件の一ヶ月前からだから。
Y:ああいうのが既に導入されていたことには驚いた。ところで、犯人の(連れ去り現場から犯行現場までの)移動手段だけどさ、犯行現場がパーキングエリアだったから、はじめは車での移動だと思われていたじゃない。
ベ:あれは(路面)電車でしかありえない。あそこ(ヤマダ電機)へ入る時と出る時には、ガードマンや駐車場整理員が数人居て必ず見られるんだから。第一、車に乗せようとすれば、その段階で人見知りしない子供でも騒ぐって。事件の地域関係を考えたらさ、怖くなって騒がずにパーキングへの移動できるのは、路面電車でしかありえない。
Y:これからどうなるんだろうなあ。一応、(少年法でも)裁けないわけだけど。刑事罰の対象にはならない。
ベ:理不尽けど民事しかないんだろうね。本人はけろっとしてるみたいだけど。
Y:そうか? 報道では反省してるって出ているけど。
ベ:ああいう殺人をした後で『ブラック・ジャック』読めるかっての。自分がやったことの大きさをさ、理解じゃなくて、実感できてないよ、まだ。
Y:ふーむ、まあ何を読んでも話題になるんだろうけど。凶悪な少年犯罪が最近になって多発化したというのは必ずしも正しくないようなんだけど、君は少年法を更に改正すべきだと思う?
ベ:まあ、故意による…まあ、それも定義がどうこうあるんだろうけど、故意の殺人とか想定を超えた部分の犯罪に対してのみ、刑法を前提にした扱いをするようにしないといけないんじゃないのかな。
Y:何でもかんでも対象年齢を引き下げれば済むという話じゃないわな。ただま…前回の少年法改正のときは僕も賛成だったのだけど、今回の事件のことを知るにつけ、逆に俺は未成年である加害者の更生の可能性について考えたね。
ベ:でもさ、加害者の更生の可能性が先に在りきっていう観点ではさ、どうだろね。今回の犯罪は、学級崩壊世代が起こした最初の犯罪だろう。これからその世代が中学高校に上がるわけだよ。今の学校を見れば、予備軍は全国に何万といるんじゃないの? 大体ね、長崎なんて学級崩壊は少ないほうだよ。それで起きたんだから。これからだってどこでもありうるだろうよ。
Y:学級崩壊の世代か…。たださっき言ってた報道陣が犯人の家の前で待ち構えた話などで思うのは、もうちょっとマスコミはそっとしてやれないものかと思うんだが。これは被害者側に対してね。それと親の責任とかどうなんだろうね。打ち首発言とかあったけど、親が責任を取るべきなのか。俺は正直わかんない。
ベ:加害者の親の社会に対する責任というやつか?
Y:表(メディア)に出てそれを謝罪する責任があるとは思わない。
ベ:結局それは、テレビを見ている人間のカタルシスにしかならない。
Y:ワイドショーだよ、ワイドショー。
ベ:犯罪の被害者に対する責任は当然あるんだろうけど。
Y:そうだよね…勧善懲悪で済む話じゃない。
ベ:ただ長崎の教育委員会の議論でさ、また今回のような重大事件が起これば、加害者の親が何らかの形で社会に対して謝罪できるような状況を設けたらどうだとかいう意見が出たりしていて…もうアフォかと。
Y:あと、ちょっと学校に期待しすぎるなよ、と思う。
ベ:だって今回の事件なんて、まだ三ヶ月しか中学にいなかったわけだから。
Y:それもそうだ。それで責任を取らされてもね。ただね、学校社会を一般社会と違うと過剰に言いたてる人がいるんだけど、それはあたり前の話でまったく同じなわけはないんだ。
ベ:しかし、『二十四の瞳』を愛読書にする俺としてはね・・・(yomoyomo、無視)。でも、加害者の親が被害者の親に謝罪しに行くとしても、それがかえって解決を遠ざけてしまうことも大いにありうるわけで。
Y:そうそう、被害者側からすれば土下座して詫びろという気持ちはあるかもしれんが、実際に土下座されてどうなるという。謝られたからといって許せるのかという。
ベ:そう。でも、謝られないと許せないというのもある。死刑と同じで、死刑になったから許せるというものでもないけど、死刑にならなきゃそりゃ尚更許せないというものがあって、だけど実際に死刑になってもそれで憎む対象がなくなって空虚になるというのがあるだろう。
Y:映画の『デッドマン・ウォーキング』を観て…お前はあまり楽しめなかったと言っていたけど、俺は好きだな。俺ははっきり死刑制度には賛成だから、監督のティム・ロビンスとは多分意見が違うんだけど。…死刑制度反対の人達に向かって、「それなら被害者のところに行って同じ事を言ってみろ」ということを言う人がいて、それを極論と批判する人もいるんだけど、あの映画では死刑執行に際して、死刑反対の人達と被害者の家族が対峙する場面があったでしょ。そういうことをちゃんとやるやらないで重みが違ってくると思うんだが。
ベ:個人的にはあの映画で死刑を望む側の主張をもっと掘り下げてほしいと思った。去年だったか、ニュースステーションで死刑問題を扱った特集があったんだけど、4人を殺害した人間に死刑判決が出て、しかし加害者が被害者の一家族と手紙のやり取りを続けるうちに、最初死刑を望んでいたその被害者家族もすぐには許せないが、死刑でなく一生かけて償ってくれという展開になるという話なんだな。だけど、残りの被害者の家族は死刑を望んでいたんだよ。死刑を望んでいた多数の家族のことは最後にキャプション程度の説明で終わりなんだよ。それだけかよ、と。
Y:バランスの問題だよね。
ベ:なんか、残りの家族が未だ死刑を望むことが悪いことのような…。さっきの話だけど、会って謝られることでかえって事態がこじれることがあるからね。
Y:医療事故を扱ったドラマでさ、「被害者の家族は一生かかって加害者を許さなくてはならない」とかいう台詞があったんだが、何と遠い道のりかね。乗り越えるとんでもない努力が課されるんだよ。
ベ:被害者側は「一生かけて償ってください」というんだけど、どっちがきついことなんだろね。
Y:しかし…今回の事件には、やはり俺にはよく分からない(納得できない)ないところがある。分かったような顔をしても仕方ないのだが……
[註1] ベンジャミン曰く、「花火祭り終了時で特に人通りが多く、手を合わせに来る人達が絶え間ない状況でフラッシュ焚けるか!!」
[註2] これは正確ではないかもしれない。報道では、「遺体の傍に散乱してかまとめて落ちていた」となっているが、あの高さから衣服だけ落として、まとまって落ちているという説明は信じ難い。
[註3] すいません、そういうつもりはないのだが、yomoyomoは声がでかいのである。
[註4] 報道では「親族に面通しを行った」。
[註5] YAMDAS全更新履歴の3月25日の記述参照。キチガイかお前は!