大雨の中、車中にて
ベンジャミン(以下ベ)と yomoyomo(以下Y)の与太話。2004年7月4日、ベンジャミンの車にて。
ベ:こうやって君が助手席で、僕が運転するというのははじめてかな?
Y:あ、いや、『Wiki Way』を翻訳しているときに食事に連れていってもらったことがあったでしょ。ほら、君がワタシを見て、「幽霊かと思った」と言った[註1]……おい! 今の赤信号だろ。止まらな!
ベ:赤じゃないよ(笑)
Y:今のを黄色とは言わんよ。気をつけろよ
ベ:お前、人には運転気をつけろとか言うけど、昨日(警察に)捕まったらしいじゃん
Y:……その話するのかよ。あー、長崎バイパスを30キロオーバーしちまって
ベ:あそこで許されるのは20キロオーバーまで。30キロオーバーで走って許されるのはセルシオかシーマぐらいで、昔ならソアラくらいだな
Y:シーマなら許されるのかよ! …まぁ、25000円は痛かった
ベ:おかげで今夜の奢りがなくなったやん
Y:何でお前に奢るんだよ! ナメたこと言うなよ。俺がお前に奢るのは、本が出たときか増刷したときだけ。ただその増刷ってのが今まで一度もないんだよね(だんだん声が弱くなる)
ベ:大体ちゃんと決められた部数刷っているの?
Y:イヤなこと言うね、君は。まあ、『ウェブログ・ハンドブック』はもっと売れてよい本だと思うんで残念だね。『Wiki Way』の方は、"cult classic" という言葉が似合うと最近思うようになったんだけど、良い言葉だと思わない? cult classic
ベ:(yomoyomoを無視し、急に改まった口調で)ところで、この車の目的地は知っているのかね?
Y:なんでお前が対談口調で仕切るんだよ
ベ:恋人岬に行くんだっけ。海に沈む夕陽が見える
Y:でも、夕陽が沈むって……今日の天気は大雨じゃない(笑)。あーいかん、傘持ってくんの忘れた
ベ:一本あるよ
Y:いや、それは遠慮しとくけど――
ベ:俺だってお前と合い合い傘はするつもりはない
Y:ならはじめから言うなよ!
ベ:でも、どんどん風がひどくなってんだけど
Y:一番台風が近づくのはいつになるのかな?
ベ:(即座に)今の時間帯ぐらいだね
Y:あ、やっぱり?(笑) すいませんね、そんな時間に車出させて。今から外海町の遠藤周作記念館に行くんだけど、ワタシは高校時代に遠藤周作の『沈黙』の感想文を書いたことが――
ベ:前から疑問なんだけど、どうして読書感想文に点数付けられなきゃあかんの?
Y:感想なんて人それぞれだからって?
ベ:そういうのは思想統一じゃないのか。そんなの別々でいいじゃない。そんなんじゃ個性的な子供は生まれませんよ
Y:まあ、君みたいに自分をアラブの大富豪の息子だと夢想するような個性もどうかと思うんだけど
ベ:それは夢見がちな頃の話だよ
Y:当時は、あんまりそういうのに疑問を感じなかった
ベ:自分の出生の秘密とか?
Y:アラブの話じゃないんだから。お前、秘密でもあんのかよ
ベ:昔はさ、兄弟から「お前は橋の下で生まれた」とか言われたじゃない
Y:そうそう! 俺なんか父親から「橋蔵」ってずっと呼ばれてたんだよな。ありゃ何だろ
ベ:あれ疑問なんだけど、長男は言われたことないんだよね
Y:そうか、君も僕も次男坊か
ベ:下の子が言われるセリフみたいね
Y:(道を指して)あー、いつもはバイパスからここに出るんです。一年に何度か墓参りしているから……ところで、墓参りで思い出したんだけど、親が歳でしょ、僕の場合。君もそうかもしれないけど。それでお墓をね、外海町から市内に移そうかとか、自分達が老人ホームに入るにはとかいう話を最近親がするわけよ
ベ:まあ、それはあるかもしれんね
Y:そういう話をされるとね、非常にこたえるんだよ。甘えていると言われればそうなんだろうけど、自分の親がいつまでも健在ではないというのは分かっているはずなんだけど、やっぱりつらいものがある
ベ:(冷たく)じゃあ、長崎に帰ってきてあげれば?
Y:何なんだよ、その硬い口調はよ! (以下、怒号)それ言ったら話が終わるだろ! 何でも言われる通りできれば苦労はしねぇんだよ! 親父は結婚しろと言うさ、お前。それで、はいそうですかと結婚できれば文句はねーんだよ、この野郎!
ベ:はははは……そんな怒る話じゃないだろ
Y:怒るよ! 君は言われないの? オレ、今日も母親とその件でケンカしてね
ベ:そういうので怒るのはもったいないでしょ。笑って済ましとけ
Y:いや、結婚のことを言われるたびに怒るわけはないんだけど、今日は「アナタが息子の結婚を望んでいるのは分かってます。しかし、それでワタシのことを片輪者のように見るなら、ワタシはもうこの家には帰りませんよ」と言ったら、母親も怒って――
ベ:お前、「北の国から」の最初の頃の純君の喋り口調みたいだね。親に敬語って
Y:僕は両親には、アナタ、ワタシで話しますので
ベ:そのギクシャクした感じがね。純君と田中邦衛の会話みたい
Y:あれ? あの親子にそんな時代があったかね? そうか、初期の頃俺あんま見てなかったから
ベ:純君は東京育ちだったわけで
Y:あれ、そうだったっけ?
ベ:坊ちゃんといった感じの純君からすれば、うだつのあがらない感じの父親がイヤだったわけで
Y:口調に純君入ってるね。東京から富良野に引き取られたんだ
ベ:いしだあゆみが浮気して、離婚して、子供二人連れて――
Y:その後いしだあゆみ出てくることは?
ベ:バカだな、お前。出てくるよ、バカ……最後には死ぬじゃないか
この後、しばらくベンジャミンによる「北の国から」講座が続く。
ベ:君とは昔のドラマネタとかあんまり盛り上がらないよね。池中玄太ネタとか
Y:あれ長崎でやってたっけ?
ベ:やってたって。九時から
Y:あー、(小学校)低学年の頃は、俺九時には寝てたんだよ。見てないわけだ
ベ:俺、幼稚園の年長の組のときに「11PM」見てたよ。俺の中では、藤本義一といえば「11PM」だったわけで
Y:でも長崎、当時民放二局しかなかったじゃない
ベ:いや、それでおいしいとこ取りができたわけで
Y:そうかぁ? まあ、確かに「笑っていいとも」が夕方学校帰りに見れたのは覚えてる
ベ:……おい、雨がものすごいことになってんだけど
Y:(ヤケになって笑う)まあ、走ってくる車も少ないし、ゆっくり安全運転で行ってください
ベ:しかし、ずっと海岸沿いの風の強い道を行かなければならないんだな、これが(二人大笑い)
以下、次回に続く。
[註1] この部分に限らず、今回の対談には前回の対談の内容がいくつも出てくるので、先にそちらを読まれることをお勧めする……と書くほど大層な話でもないが