ヤツが戻ってきた……
ベンジャミン(以下ベ)と yomoyomo(以下Y)の与太話。2016年5月1日、長崎の某居酒屋にて。
Y:久しぶりの対談ということで――
ベ:やるんですか?
Y:やるんです。これはある意味……アガサ・クリスティの『カーテン』みたいなもので、今これをやっているのは5月1日、でも、公開するのは数ヶ月後なんですね
ベ:ん?
Y:今年、YAMDAS Project に一段落をつけることになったんだよ
ベ:なんでまた
Y:これが適えば yomoyomo としての活動を止めるという内的な条件があって、それが――
ベ:叶わないから、止めると決めたのか?
Y:決めつけるなよ。それに……マジメな話をすると、もう雑文書きとして自分にできる仕事の余地がもうあまりないと思っているところもある
ベ:だから言ったじゃん、自分の経歴を盛るなって
Y:ワタシは経歴盛ってねーから! 学歴詐称もしてませんから
ベ:サラリーマンなのに「雑文書き」なんて
Y:「雑文書き」がお前にとっては盛ってることになるのか! そういえばね、今年 GQ JAPAN にデヴィッド・ボウイの追悼文を依頼されて書いたのね。そのときプロフィール文を求められて、いつも使ってるやつを先方に送ったら、「雑文書きというのは自分を卑下しすぎではないでしょうか」と言われて、「いや、これは違うんですよ」と答えたんだけど、君にとっては「雑文書き」ということ自体が盛ってることになるのかよ
ベ:雑文家に対して失礼だよ
Y:ワタシは雑文書きのレベルにも達していないとでも?
ベ:だいたい俺の喋りがお前のサイトに載ってる時点で「駄文書き」さんだ
Y:お前、ウェブサイトに寄稿されてる文章読んで、最後にプロフィールに「駄文書き」とあったらさすがに引くだろ
ベ:でも、ホントに止めてしまうわけ?
Y:あまりこういう言い方はしたくないんだけど、端的にトレンドについていけてないところがあるから……でも、正直すごく怖いわけね。今まで……17年間? ウェブを更新し続けること、内的なテンションを保って質の高い文章を書くことにずっと執着してきた人間が、それがなくなってしまうと、生きる張りがなくなって抜け殻になるんじゃないかと
ベ:ウェブさんが更新させてあげてたのにね
Y:ウェブさん? ああ、俺がやってんじゃなくて、俺はやらせてもらっている、と。お前は謙虚さが足らん、と。今日は君、俺を削ってくるね
ベ:天丼だけどな
Y:お笑い講座じゃないんだから(笑)。でもね、今年の早い段階で終わるというのは分かってて、自分の中では、威厳ある終わり方というか、WirelessWire News の連載も50回キリよくやって、カッチリした最終回を書いて、他にもずっと書きたかった文章を書き上げて、対談の最終回を公開して……と自分がコントロールした終わり方ができるかなと思ってたんだよ。でも、そう思っていた2月半ばから事態が急変しまくって、怒涛の超展開的なことになってしまったんだよね
ベ:(おもむろに歌い出す)止めな〜いで〜♪
Y:なんで舘ひろしなんだよ。つーか、それ「泣かないで」だろ! ただ……やはり寂しさはありますよね
ベ:長く続けてもツッコミがベタなのは変わらんかったね、寂しいよ
Y:一回対談でも「グランド・フィナーレ」という回が10年以上前にあったんだけど――
ベ:浜町アーケードを歩く俺の後姿の写真があるやつ?
Y:いや、それはその次の回で2006年はじめのやつ。なんで「グランド・フィナーレ」みたいなタイトルにしたかというかというと――
ベ:お前の止める止める詐欺のせいで、写真まで混同しちまったぜ。YAMDAS 対談、俺が一番のはずなのに
Y:対談の回数が?
ベ:いや、対談を読んでる回数だよ。俺の対談の中で自分の面白さを確認したいあまりにね
Y:「俺の対談」って……(ベンジャミンをしばく)。あのときは、当時翻訳した『デジタル音楽の行方』という本がすごく売れると本気で思っていて、それが花道になると勝手に考えていたわけよ。ただ、いまどき「(サイト)閉鎖」とかいちいち言う人っていないから。ワタシにしたってサイトをすぐ丸ごと消すつもりはないから。Twitter ぐらいやるんじゃないの?
ベ:全部止めちゃえよ、Twitter やってたらまた書きたくなるだろ
Y:逆にすべてなくしてしまった場合、自分がどうなるか想像して怖くなるところがあるのも確かで。ただ……今は映画を観ても、本を読んでも、その記録をブログなりサイトなりに書くというのが頭のどこかにあって、そういうプレッシャーから解放されるというのはあるだろう
ベ:ふうーん(訝しげな目)
Y:でも、WirelessWire みたいなサイトに書いてる文章は、一度止めたら、また書きたくなっても、再開する余地なんてなくなっちゃうよね。代わりはいくらでもいるんだから。そうした意味では、yomoyomo というペルソナの死なんだろう
ベ:いろんな書き手が新たに登場しても、キミみたいなかしこまった文章を書く人はそうそう出てこないと思うけど
Y:そんなワタシはかしこまってるかね?
ベ:一読者であるワタクシの感想ですから。そういう意味で、キミは唯一無二だったんだよ(半笑い)
Y:一応 WirelessWire の編集者には意思を伝えたし、あと5回くらい書いてきれいに終えたかったんだけど、何せ今生活がドタバタで……下手すればもう新作を書けなくなっちゃって、ぐだぐだのまま自然消滅的に終わってしまう可能性はあるわけで
ベ:yomoyomo のくせにぃ
Y:やはりいまだにその名前を名乗るのは恥ずかしい。そういえば昨年末だったか、文化系トークラジオ Life のトークイベントに福岡で参加したときに、登録名を yomoyomo にしてたら、珍しくワタシを知ってる女性が受付にいて、その名前を口に出されたときは顔から火が出るかと思った
ベ:そこまで恥ずかしがられると yomoyomo さんが不憫だねぇ
Y:でもね、さっき GQ JAPAN について書いた話をしたけど、ワタシが雑文を書いて、サイト運営が軌道に乗ったと思ったときに、夢というか無謀な望みを持って、それは音楽と将棋で原稿依頼を受けるということだったんだね。将棋は『大山康晴の晩節』の解説で達成して、音楽のほうも今年達成したわけで、だから、ある意味思い残すことは…………まだあるんだけどさ(笑)
ベ:まー、お前のそんな話はどうでもいいんだけどさ、俺のほうに厄介事があってね
Y:何かあったん?
ベ:5、6年ぶりに……ヤツが戻ってきたんだよ
Y:ヤツ? ヤツって誰?
ベ:ヤツだよ……知ってるだろ、ジローのこと
Y:ジロー? ……ワシらにそんな友達いたっけ?
ベ:ヤツだよ、覚えてないか?
Y:んー? 分からない。ジローって誰だよ
ベ:日テレの、木原さ〜ん
Y:そらジロー〜
ベ:頭に何か乗っけててな
Y:それ、冠ジロー
ベ:ブラインド越しにこっち見てるんだよ
Y:裕次郎……もういいよ
ベ:あの野郎、俺を苦しめに戻ってきやがった
Y:だから誰だよ?
ベ:ジローだって! 俺のジロー
Y:……………もしかして、ぢろう? そっちのジローかよ!! てか、無駄に伸ばすなよ
ベ:その界隈ではキングなんだぞ
Y:何がキングや。威張ってる暇があったらさっさと病院行きなさいよ
ベ:キングなんだぞ、キング。ヤツが来たんだよぅ……白いワニより怖いやつが来ちまった、どうしよぅ……
Y:(呆れてる)頼むよ、この最終回の後編を録るときまでにはちゃんと病院に行っておいておくれよ