「今最も熱い話題である blog について語ってみたいわけだが――」
「今更かよ! もう、いいよ、うんざりだよ、食傷だよ、勘弁してくれよ!」
「無茶苦茶言うね。別にもう一度騒動を蒸し返そうというんじゃなくてその後の動きの話を追いたいんだけど。ほとぼりも冷めたでしょ」
「でも、どうせ悪口言うんだろ?」
「そこからして間違っている。どうも I can't blog. を読んでアンチ blog とか言う人もいるけど、あれより熱心に blog を紹介した文章があったら教えてくれよ。大体、俺ニュースの反応リンク集でも、『まずは何より blog から豊かなコンテンツ、議論が生まれるところを見ていこうじゃないかと思う』という非常に前向きな文章が引用されていただろ。読む人が読めば分かるわけ」
「おっ、今度は blog 陣営に擦り寄りかい?」
「だからそういう党派性で捉えるのがおかしい。例えば、反掲示板とか反電子メールと置き換えただけでも反 blog という物言いがおかしいのが分かるだろう。僕は『人を憎んで、ツール憎まず』の精神でやってます」
「アホか。でも blog の一件も昨年末からいくつかの雑誌で取り上げられたね」
「うん、俺も何誌かチェックしたけど、ゲームラボやネットランナーは、こういう機会でもなきゃ一生読むことはなかったろう」
「ゲームラボ2003年1月号には ARTIFACT の加野瀬未友さんが「blogサイトから見る個人サイトの未来」という文章を書いている」
「内容的にフェアな良い文章だった。そういうバランスの取れた文章をあの雑誌の読者が望んでいるかは分からんのだけど」
「またいらんことを。この文章では大森望さんの「ハイパーダイアリー」あたりから日本の個人サイト史を書いているけど、そういえば「テキストサイト大全」でもその辺りの話って出てこなかったよね」
「実は俺もそのあたりはリアルタイムには知らんのだけど、その大森望も ASCII 2003年2月号に「僕がblogしない理由」という文章を書いている」
「このタイトルといい、その中の『やっぱり腰が重いのは、たぶん自分にとっての”お祭り”が7年前に終わっちゃった感が強いせいだろう』という文章といい、そのものズバリですな」
「古株の心境はこの一言に尽きるんじゃない? だから今更その当時のことを顧みる気もしないのかもしれない」
「大森さんの文章にも登場する赤尾晃一さんのインタビューが Yahoo! Internet Guide 2003年2月号に載っている」
「日本ウェブログ学会発起人としてね。正直あまり面白くなかった。今更日記才人を勧めるのかよ、と」
「そりゃアンタが「ウェブ日記が嫌い」などとほざく偏屈者だからだよ」
「あとあまりにウェブログのジャーナリズム性を喧伝するのもどうかと思った」
「でもアンタも似たようなこと山形浩生勝手に広報部の部室に書いてたじゃない」
「うん、あれはちょっとまずかったかも。でもあのとき伊藤穣一さんがあまりに隙の多いことを書くもんだから何か書かなあかんな、と…何でワシが擁護せにゃならんのかと思ったもんだ。浜田寅彦さんが『気持ち悪い』と書いたのもそこらへんを指しているのかな」
「でも、アンタが訳した「ウェブログの倫理」を読んでそう思った人もいると思うよ」
「あれは単に Rebecca Blood があの文章だけ公開していたから訳したまでで、「The Weblog Handbook」にもはっきり「結局のところ、ウェブログとジャーナリズムはまったく別物」と書いている。「ウェブログの倫理」はそれを踏まえた上で、なるだけ公平を期さなあかんちゅうことでしょ。例えば blog じゃないけど、マイケル・ムーアの一件はそれに反した例というわけ。あー、でも早く「ボーリング・フォー・コロンバイン」観たいなぁ」
「ジャーナリズムそのものとジャーナリスティックな姿勢とはイコールではないということか。でも、Rebecca Blood 自体が旧世代ということはないのかい。もちろん赤尾さんもみんながジャーナリストになれと言っているわけじゃないけど」
「正直な話、英文を読んでいて "journalism" と "journal" を混同してしまうことがあってね。後者は「日記」という意味だから、この場合前者とは意味がはっきり違う」
「そこでウェブログとの比較なんて言われるとますます分かんない。「journal vs. weblog」なんて文章を読んでも何がなんだか」
「えーとね、結局 Beltorchicca の文章が一番的確だった。あそこを読んでおけばまず大丈夫。アメリカでの blog の展開が知りたければ demi さんが splash! に書いている「ウェブログ事始め」を読めばよいだろう。demi さんは僕と同い年らしいんだけど信じられんな」
「確かにこれを読めば企業主体の高品質なオンラインパブリッシングがなされていたアメリカと、個人サイトが奮闘しまくっていた日本の事情の違いが分かる」
「でも一方で歴史は繰り返すというか、日本で起こったことも別の形でアメリカでも起こっていたことが分かって微笑ましくなる。この前の騒動だって、Blogger の登場後に起こった論争と近いのかもしれない。赤尾晃一さんが『blogの場合も「BLOGGER」を嚆矢としてビジネスとして仕掛けられた側面があり』と書いていたのはこういうことなんだね。つまり――」
「でも、定義や区別の話はもうどうでもいい。うんざり。雑誌で最も力の入った特集を組んでいたのはインターネットマガジン2003年2月号だろうね」
「この号は Lawrence Lessig 教授のインタビューもあったし、はじめて自分で金出して買ったよ」
「でも「日記サイトを超えるBlogサイトを作りたい!」なんてまた日記サイトを刺激するようなタイトルで…」
「それぐらい煽らなきゃ雑誌も売れんのだろ。いいんじゃないの? Daiji Hirata さんの詳細な Movabletype 解説記事や、Kevin Werbach のウェブログ概論文章の日本語訳とか良い仕事してるじゃない。これの翻訳・構成をやっている先田千映は件の騒動のとき「皮肉がヘタだと思った」とかネガティブなコメントしてる連中は無視されて嫉妬してるだけみたいなことを書いていて大笑いしてしまったけど」
「いや、その中にはたぶんアンタも含まれてんだぜ? この記事は JBA の協力で書かれたようだけど、はじめにこうした作業をやっておけばあんな反発食らわなくて済んだのにね。あとネットランナー2003年1月号にも blog 騒動が載ったって?」
「あの厨房雑誌の記事が一番早かった。「3分でだいたい分かる"blog"騒動」という図にうちのサイトが載っているん…だな」
「何だ、ネットランナーに取り上げられて嬉しくないのかよ」
「嬉しいといえば嘘になる。一番引用してほしくない文章が引用されているし。これを書いたのは TECHSIDE の TECH さんだけど、さすが、ずるいがうまい、やられたと思った」
「アンタが書いた文章なのだから自業自得だろ」
「件の図では話題になったサイトをいくつか分類しているのだけど、mesh、JBA(仮)、テキスト・ニュースサイトといった分類と並んで「古参ネットワーカー」という分類があって、山形部室とワシの文章は何故かそこに入っているんだなっ」
「古参ネットワーカー! ぶははははは、まあアンタの場合「偏屈ネットワーカー」の方がお似合いだけど」
「うるさい! でも、こないだもはまもとさんに「えらく昔から、巡回しているサイト」と書かれて自分がすごい年寄りみたいな気分になったもんな。自分では未だに新参若手弱小サイト管理人という意識なんだけど」
「若いと思っているのは自分だけで、現実はただの弱小サイト管理人ということでしょう」
「ふん。あとネットランナーの同号にはばるぼらさんも blog について書いているけど、ちゃんと Jorn Barger にインタビューしている。すごいよね。Jorn Barger のコメントで面白いかったのは、ウェブログを一人で運営することが重要だとこだわっていることかな」
「そういえばあの文章書いて何かメールで反応とかあったの?」
「「個人的な話」にも書いたけど、本格的にメールをくれたのは伊藤穣一さんだけだった」
「寂しい話やね。弱小個人サイトなんてそんなもんか。お前も blog 始めたらどうよ」
「大きなお世話だ。そうそう、本筋とは離れるけど、あの文章で名指しで悪口書いた力武健次さんからその真意を問い質すメールをもらった」
「ええっ!? …ほら、いわんこっちゃない」
「仕方ないんで、僕はこういうところが気に入らないんですわと書いて返信したけど」
「……アンタ救いようのないバカだな」
「直接の反応は少なかったとはいえ、あの文章はいろんなところで取り上げられたからそれでいいよ。ただよく分からんかったのが Mac News 4 U で、11月10日には『議論を呼ぶ事は覚悟の上、敢えて掲載』と紹介していて、12日には『掲載に励ましのメールを下さったみなさん、ありがとうございます』なんて書いているのだけど、俺の文章はそんなビビるような危険物かね?」
「こんな下品で低級な文章をリンクしてすいませんということなのかも」
「殺すぞ。それはともかくね、ウェブ上の反応では結城浩さんのが一番厳しかった」
「へ? あの人がそんなキツイこと書くかね」
「結城さんは僕の文章について、『WebLog(blog)にまつわる情報・経緯・リンク集』とコメントしているんだけど、つまりは結城さんにとって、ワシの文章は論考・考察と呼ぶに値しなかったわけだ。僕の場合、自分の文章が「リンク集」といわれるのはものすごく恥ずかしいことでね、もちろんリンク集が作れるぐらいリサーチはしたし、実際あの文章はそこらの blog 以上にリンク駆動型だ。でも、単なるリンク集で済ませたくないから文章に昇華しているんだけど。つまりウェブならではの他サイトへの接続性とコラムとしての質を両立したいという――」
「まずアンタの解釈が歪んでいるよ。それにアンタがどう思おうが他人にはどうでもいいことで、それだけの質がないという評価なら、それはそれとして受け入れるしかない」
「まあそうなんだけど、僕が I can't blog. というタイトルにしたのは何度も書くように blog というスタイルそのものを否定しているんじゃなくて、単に自分のスタイルでないということなの。例えば梅田望夫さんが blog と column の違いについて書いているけど、氏が言う『BLOGは反射神経で書く』というのが僕にはできないんだ」
「単に頭の回転と書くスピードが遅いヘタレということでしょ? それはともかく、騒動の後におこった一番の変化って何だろうね」
「やはり Japan Blogging Association(JBA) が実際にできたってのは大きいのかもね。僕自身の変化としては、巡回サイトに blog サイトが増えたこと」
「ほーおっ!」
「ただしその巡回 blog は、先ほど例に出した梅田望夫さんの blog であったり Going My Way であったり On Off and Beyond と元から質が高いものであって、未だ mesh 関係に面白いものなんてないし、あれで研究とか実験とか言えるのかね。JBA のページで名前見る奴のサイトも画面うざいし見る気にならんわ」
「うん、Going My Way は近視の年寄りにも優しくていいな! その点、On Off and Beyond は「ネオテニー標準」でツライ」
「お前もう少しマシなこと言えんのか。それにしても JBA のサイトって、担うべき重要性を考えればクズだね。少なくともウェブユーザビリティを踏みにじるために作っているとしか思えん。いきなり音鳴らしながら何メガ画像を読みこませるんだという」
「いろいろ言われているね。『日本語ドキュメントのまとまり具合とFAQなどの整理のされ方は論外中の論外』とか、『JBAは何をやりたいのかがいまいち見えてこない』とか」
「そんな地道な作業より MovableType の作者夫婦を招いてパーティ、とかそういう方を優先しているのは、まだ「お祭り」が続いているということなんだろう。いいじゃないの、楽しくやってるんだろうから。新規参入者を取りこむやり方としてはどうかと思うけど、まあそうした人は自力でBLOG質問箱ぐらい見つけるのだろう」
「『Macのかっこよさと、ちょいクローズドっぽさがMTには大事』というのは既存の仲間意識を優先したいのかな。伊藤穣一さんはあの騒動のとき「日本の閉鎖的な文化」を愚痴ってたけど、一体どっちがどうよと言いたくなる」
「そういう見方が党派的なの。件の発言は伊藤さんのものではないし、ちゃんと発言者のフォローも入っている。それに blog ツール=MovableType でもないから切り分けはしないと。でも「blogツール一覧」は見てて胸糞悪かったので思わず新年早々書きこんじゃったけど、一層気分が悪くなっただけだった」
「この『でもすぐどっかいっちゃうんでしょ? それともずっとかいてくれる?』って何が言いたいわけ?」
「知らんよ。これを書いた奴が低脳だというのは分かるが。『そもそもそんなことを言う事自体が腐ってるとしか…』と言われても仕方ないだろう。何だ、こんなに敵意を持たれていたのかとガクっときた」
「ふーん、今ごろ気付いたの?(わらい)」
「そのかっこわらいがムカツクんじゃ、ボケっ!」
後編に続く