C-Tools(後編)


前編より続く

blogosphere の行方

「もう少しポジティブな話題ないの?」
「いっぱいあるわい! 日付単位よりもトピック単位の方がしっくり来る人は、今回の件ではじめて海外の blog ツールを知って、自分に合ったツールを見つけられたかもしれない。いいことじゃない」
「できればフォントを大きめで」
「黙ってろ。あと日付単位とトピック単位という比較だけでなく、アンテナ文化に対する RSS の利用ということで、そっち関連の情報が流通する契機にもなったと思う」
Blogrolling なんかも目新しかったのかな」
「ちょうど向こうでは Ben Hammersley による「Content Syndication with RSS」という本が出るようで、これの日本語訳が定番本になるかもね」
「O'Reilly からは「Essential Blogging」も既に出てるけど、これの邦訳が出ると嬉しい人達もいるだろう」
「向こうでは Blogger の Evan WilliamsRadio UserlandDave WinerRSS の扱い方を巡って論戦を繰り広げていたみたいで、そうした技術周りの活気を反映してるんだろう」
「自分の興味ある技術分野のエキスパートの blog を読むのは勉強になるかもしれんね」
「そうそう、例えば少し前に Apple がリリースした Safari ブラウザの件で、Jamie Zawinskiblog の記述などがニュース記事に取り上げられたじゃない。梅田望夫さんのブックマークページから自分が興味ある分野について書いてある blog をしばらくウォッチすれば、知識を増やしながら同時に英語を読む訓練にもなる。一石二鳥」
「英語ばかり読むのはやっぱツライけどね。けど、そうした専門分野のエキスパートの blog、言いかえればそれそのものが一次情報源になる blog なんてのはそれこそ一握りでしょ。もっと一般の人が作る、いっちゃなんだが凡庸なサイトが大勢なんだろ」
「そりゃそうだろう。そういや Eric Raymond は blogosphere なんて言葉を使ってたっけ。普及している表現なようだ」
「ESR といえば、最近の彼のおっかない文章はどうよ? これも blog が発信元だぞ」
「反イディオタリアン宣言」なんてのは、端的に言えば…胸糞悪い」
Warblog なんて言葉があるようだけど、あんなドンパチ主義を標榜する連中が結構いるというのはなんだかね」
「確かにチョムスキー・バッシングがいま blog 界でファッショナブルなんてのを聞くと、チョムスキー・シンパじゃない俺もすごく嫌な気持ちになる」
「blogger は右寄りだって指摘する記事が既存メディアに出てるそうじゃない。blog 騒動のとき、『日本最大の blog は2ちゃんねる』と言った人がいたけど、嫌韓が幅を利かせていてサヨクがバカにされる2ちゃんねるを見てると、別の意味でその通りなのかもと思う」
「いやいや、そんな印象論で片付けちゃいかんよ。それを一歩進めれば「「ブログ」の中のうじ虫」を書いたうじ虫レベルになっちゃう。バカにしていいサヨクだって実際いっぱいいるんだし、俺だって韓国が好きかと言われればそんなことはない」
「さっき blog とジャーナリズムの話があったけど、911のテロ以降そうした意識を持った blog は増えたのかもしれない。しかしその結果導き出されたのが、ネオコンの価値観に乗せられた短絡的なガチンコ主義だとしたら笑ってしまう。ジャーナリズム気取りなだけ一層タチが悪い」
「うーむ、「独立系オンライン・メディアの台頭」「大手メディアに警鐘を鳴らす「ブロガー」たち」じゃないけど、既存メディアに対するカウンターはネット上に出ていると思うけど」
「でも、blog の場合それがどこまで有効に働いているかは疑問だね。結局一部のウェブログがトラフィックの大半を占めているんじゃない?」
「それについては Clay Shirky が「Power Laws, Weblogs, and Inequality」という文章で、多様性が逆に不公平さを増すということについて論じている」
「でもそれって blog に限った話ではなくて、これまでも繰り返されてきた話だよね。日本の個人サイトでも、日記猿人不正投票疑惑といったあたりに始まって、最近でもそうした構造に文句言っているサイトがあったじゃない」
「Clay Shirky の文章については早速反論も出ているけど、お前が言う通りそうした図式を散々見てきた側からすれば、それはそれで仕方ないと思うんだけどねぇ。話題のカテゴライズが有効に機能すればどうかとも思うけど、blog が特別だとは正直僕は思わない」

blog & money

「blog でビジネス、という話はどうなのだろう。海外のニュース記事を読むと、一応は有料サービスも成り立っているようだけど、それは飽くまでサービス提供側の話じゃない。コンテンツ提供側、ユーザはそれをビジネスにできるのかね」
「僕は『マイクロペイメントは blog として意匠を新たにすることで日本でも本格化するのかもしれない』と書いたけど、早速そういう話が JBA でも出たんじゃない? でも…あの程度のコンテンツで課金などと言うのは、一言で言って恥知らずだと思う」
「そんなこと言うから嫌われるんだぞ」
「もう知るか。でも、Dave Winer がハーバード大学の特別研究員に招かれるご時世なんだから、ビジネスサイドにも広がらないわけはないと思う。ただまたしても Clay Shirky を引き合いに出すけど、「Weblogs and the Mass Amateurization of Publishing」に書かれていることも踏まえておかなくてはならん」
「ゲーム開発からビジネスソフトへ、浸透を始める“ブロッグ”」に書いてあるあたりが展開の一つなのかな」
「blog をユーザの声を吸い上げる道具にするのはうまいやり方だと思う。Linux 以降オープンソース化というのがもてはやされたけど、それは飽くまで開発者を取りこむ手段だから。企業サイドとして必要なのがデバッグ要員ではなくて、より良いアイデアを出してくれる一般ユーザならどっちが適切かは明らか」
「そうした意味で「ネットコミュニティビジネス入門」という本の宣伝のために関心空間に特設サイトを作るというのも面白い実践だよね」
「うん、ただ本のプロモーションという意味では期間限定なのも良いのかもしれないけど、その成果は何らかの形で残してほしいとは思う。個人的には件のサイトは、関心空間のインタフェースの制約が痛し痒しになっているように感じられたけどね」
「ゴンゾー・マーケティングを名乗るレベルまでは達してないか」
「ただね、僕自身は blog をユーザ側からビジネスにするとなればワイヤレス、携帯との絡みだと思うのだけど」
「えー? 川崎裕一の「ワイアレスとウェブログの邂逅」ですかぁ?」
「うん、正直あの文章を最初読んだときはどうかと思ったけど、目の付け所は悪くないと思う」
「そりゃ、地域情報系はBlogの良さが活かせる分野という意見はあるけど」
「ただね、そこで青木大我「WeblogからMoblogへ、そしてその先へ」みたいな方向に行くと全然ダメ」
「『ジャーナリズムのあり方そのものを変える』とか力んでいるところが?」
「そう、そんな大層な使い方ばかりできるわけないじゃない。カメラ付き携帯を持った人全員が報道記者になれってか? バカバカしい。そんなもんじゃなくて、もっとその人個人の情報とそれの他者との共有による価値の創出でしょうが」
「でも一人一人が持つ情報なんて大したことないよ。既にヤプースなどのサービスはあるけど、『質の著しい低下を招くものとして、「意見を発信することに自覚的な人」からは、比較的敬遠されている』じゃない」
「いや、要は使い分けだって。そうしたのに通常のウェブログと同等の情報射程距離を求めるからいけない。もっと皮膚感覚というか…先日、「ネットワーク界のジャイアン」の異名を持つ人に話を伺ったのだけど、氏の友人が GPS 携帯を使って撮った画像とそのときの位置情報を記録しまくるウェブページを仲間うちに公開していて、『ここの店が旨い』といった情報をメールで送ってくるそうなんだ。こういうのは面白い」
「でも、そうした情報は通常プライバシーというか隠匿するものでしょう」
「それを逆転させれば別の可能性が広がるとも言える。即席のコミュニティが作れるとかね。つまり、何曜日の何時にどの店にいるといった情報を集積するだけでその人の文化圏が分かるわけだ。そこで撮った写真にちょっと気の利いたことでも書いてあれば、その人に会いたくないかい? これは気が合うなと思った数人がぱっと行きつけの店で出会える。「つながり」は関心空間的インタフェースでうまく表現できるかもね。これは青山南さんの「休業しようが無効になろうが」を読んで思ったのだけど、こうした地域情報とその利用者個人の利用情報をうまくつなぐ情報公開システムとしての blog はビジネスになるだろう。nyc bloggers のモバイル版というか」
「アンタが言うと何か怪しいな。海外ではどうなんだろうね。WAPBlog なんてのはあるみたいだけど、携帯関係のサービスで言えばアメリカより日本の方が先を行っているのかな」
「うん、更に言えばこうしたサービスが意味を持つのは日本でも東京二十三区だけだと思う。都市型サービスなのは間違いない。でもそれだけに限定したってそれなりのパイはある。どうも Fotolog はそうした方向性じゃないし、Moblog には可能性があると思うよ。あー、どこか俺を年収一千万くらいでコンサルタントとして雇ってくれんかな」
「頼むから死んでくれ。それくらいなら既に話はあるだろうし、Howard Rheingold の「Smart Mobs」にいくらでもそうしたアイデアや知見は入ってるんじゃねーの?」
「うっ…それならその本、翻訳させろ!」
「カメラ付き携帯も持たないくせに、止めとけ止めとけ」

Hooky Wiki

「とまあ、ここまで主に舶来の blog 関係について語ってきたわけど、それ以外の話として――」
「なんだ、まだ終わりじゃないのか! もう疲れたから、要点を頼む」
「何だよ…仕方ないな。今最もホットなのは tDiaryはてなと Wiki の展開だな!」
「Wiki を入れるのは手前味噌じゃない?」
「そんなことないって。tDiary の作者のただただしさんも『blogとWikiは個人サイト構築の両輪』と言っておる。SnipSnap などのウェブログ対応 Wiki エンジンもあるけど、Wiki は Wiki としてその特性を活かしていけるだろう」
「でも、tDiary にしても Wiki にしても個人サイトに設けるのはまだ敷居が高いよ」
「そうした意味で今最も Wiki に求められているホスティング、WikiFarm を Tiki で運用するプランが進んでいるみたい」
「何より Tiki 公式サイト復活が嬉しいよ」
tDiary.net にしても個人運用サービスだから簡単にホスティング増強と言えないけど、その代わりドキュメンテーションの動きが活発で、初学者にはありがたいだろう。tDiary-users Project Wiki など Wiki でおこなれているのが素晴らしい!」
「やっぱり手前味噌。まあ、DebianWiki のように Wiki がフリーソフトウェアプロジェクトに欠かせないものになるといいけどね。でもそんなに Wiki を宣伝したいなら、早く「日本発の wiki クローンリスト」のパート2を書きなさいよ」
「おう、Hiki がソース公開したらな!」
「だから無責任に他人にプレッシャーかけるの止めなさいって。アンタがクローンリスト書いた後も新作 Wiki エンジンがいろいろ公開されてるんだから」
「これもたださんの意見だけど、Wiki が『自分も作ってみたくなる』システムであるというのが大きい。一方で tDiary コミュニティの活発さは、やはり先の blog 騒動が刺激になったというか、ポジティブなフィードバックじゃない? 少しは俺も貢献できたのかな」
「それは絶対にないし、失礼だよアンタ。『tDiaryのプラグインは、Rubyを始めるとっかかりとしてはハードルが低い』とか、『Ruby初心者がRubyを勉強するにはなかなか良い環境』であるという事実が遥かに大きいでしょ」
「うーむ、でも今年に入ってスタイル機能がサポートされたけど、Wiki スタイル「Wiki Way」抜きでは語れないんじゃないですか(言いすぎ?)」
「言いすぎ。アンタが訳した本なしでも tDiary コミュニティはスタイル機能に達してたって」
「うぐぐっ…。でも、いろんな tDiary サイトで Wiki の文字が躍るのは嬉しい。ウィキウィキしてくる」
「それダジャレのつもりか? さっさと話先進めてよ。ところではてなはどうなのよ」
「正直、俺もあそこがただの人力検索サイトだったときにはほとんど注目してなかった。でもはてなアンテナにはびっくりした」
「あれは個人ユーザの巡回サイト管理の形を変えたんじゃない? こうしたサービスこそユーザフレンドリだし愛されるものだね」
「そうそう、そして続いてはてなダイアリーサービスが開始された(ベータ版)」
「この段階で『はてななら単純なウェブ日記サービスにはならないだろう』という期待感があったね」
「大げさに言えば、一種の神憑り状態なのかも。そこで俺が言いたいのは『はてなは日本の Googleである』ということだ」
「提供してるサービスは全然違うけど、共通点はあるね。さっきもいったユーザの利便性を高めるサービスをシンプルで軽いインタフェースで提供しているところ」
「金よこせ的雰囲気がなくて、逆にどうやってビジネスを成り立たせているのだろうかと心配になるところ(笑)」
「まあ、元の検索でやってるポイント制を Amazon アフェリエイト的に活用するのだろうけど、どうやって収益を上げるのだろうね。話を戻すと、「はてなダイアリー日記」を見るとまだ試行錯誤段階だけど、それだけユーザの希望に応じて新機能が追加されていく様が見られて興味深い」
「技術的に見ると面白い点は二つあって、一つは tDiary のテーマを活用しているところ」
「でもそれははてなダイアリーに限らない。Hiki でもそうだし、Tiki でもそうなる予定だね」
「これで俺がさっき言ったことが分かるだろ。tDiary とはてなと Wiki が見事につながっている! そして二点目はね、はてなダイアリー自体が一種の Wiki なんだよ!」
「キーワード機能ね。確かにこれは他のウェブ日記サービスにはないものだろう」
「うまく共有されて育ってほしいね。この間「オープンソースで成長を続けるオンライン百科事典」という WikiPedia を紹介する記事が出たけど、もちろんその日本版にも育ってほしいとは思うけど、はてなダイアリーキーワードがそれに匹敵するものになるかもね」
「それは難しい。だって元から百科事典目指したものと日記サービスに付随するものでは土台も中立性も違うでしょう。早速「愛・蔵太の気ままな日記」あたりで一悶着あったみたいじゃない」
「まあ、そうかもね。でも逆に言えば愛・蔵太さんが暴れたり、ひらばやしさんがオッパイ星人ネタで咆哮したりと、著名な人が呼び水になって参加者も増えるかもしれない」
「あのー、誰も暴れていないし、咆哮もしとらんぞ。デマゴギーは止めなさい」
「でも、どんどん Collaboration、Communication、Communityを司るツールの多様性が出てくるのは素晴らしい話だと思うよ」
「言っとくけどアンタはそれに何も貢献してはいないのでそれは忘れないように」


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初出公開: 2003年02月12日、 最終更新日: 2003年06月15日
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