マイクロソフトが今すぐ製品化すべき金鉱


 ついに Windows 2000 発売である。これに関してはそれこそいろんな媒体でいろんな人がいろんなことを言っている。それをサンピリョーロン紹介して自分の意見をまとめている暇などない。

 ふーん、マイクロソフトのみが存在する未来に向かう着実な一歩だねウィリアム・ヘンリー・ゲイツ三世君、ぐらいの皮肉は言ってやりたいところだが、こういった言説もいいかげん聞き飽きたでしょ?

 だから率直簡潔に書かせてもらう。

 マイクロソフトよ、君たちは実はものすごい金鉱を見逃しているのだよ。今すぐにパッケージ化すべきシステムを君らが持っている、ということだ。ソフトウェア開発全般に利用でき、どんな過負荷に対する実績も運用期間の実績も十分というシステムを。


 先日 Windows 2000 には6万3千個にも及ぶバグが存在する、というニュースが流れ、アンチ MS の連中はそれみたことかと騒ぎまくった。予定から年単位で発表が遅れておきながらこれだけバグ残した OS を売りつけるなんて犯罪だうんたらかんたら。

 しかし僕はこのニュースをまったく別の視点から見ていた。数万個ものバグを残して OS を発売する神経はともかくとして、これが本当なら実は急激な進歩なのではないか、と思ったのだ。いや、皮肉抜きで。

 かのハロウィン I の中で、元マイクロソフト社員による証言の中に以下のくだりがある。

かれはさらにこうつけ加えている。インターネットエクスプローラ 5 は、あるベータリリースの直前に、なおすつもりでいたバグが 300K 個 (誤植じゃないよ、300K個だよ) ほど残っていた。で、このデバッグの相当部分は、単に予定の(新)機能をどんどん取り除いて、それを将来の(一、二年先の)リリースにまわすことで達成されたそうな。

 ブラウザと OS は不可分、というのがマイクロソフトが司法省との裁判で一貫して繰り返した噴飯ものの主張であるが、ここでは一旦全面的に認めるとしよう。するとどうなるのか。IE5.0 ベータ版のバグは当時開発中であった Windows 2000 のバグだとも言えるのである。となると、当時の Windows 2000 のバグの総数は、IE のバグが占める割合をざっと全体の半分だと見積もって、600K 程度だったと考えられる。となると当時からすると Windows 2000 のバグはおよそ十分の一程度まで減少したことになるのだ! それで6万というのが彼らがマイクロソフトたる所以なのかもしれないが。

 それに、である。みんな見逃してはないだろうか。そもそも6万個だか30万個だか知らないが、そんな数十万単位の数字のバグを追跡するデータベースシステムがこの世に存在するということ自体が脅威なのではないだろうか。PC UNIX の世界でも、追跡する件数が数万件に達してかなり重く感じられるようになった、というような話を聞くけど、僕は Windows 2000 が達成する(と主張される)スケーラビリティにもセキュリティにも TCO 削減にも余り興味がないどころか精神衛生上近づきたくもないのだが、彼らのバグ追跡システムには大変興味がある。こっちこそ追跡したくなる。


 もしこれがマイクロソフトの独自システムなら、彼らはこのシステムこそを製品化すべきなのではないだろうか。これが本当に数十万単位のバグを記録し、それが十分の一程度まで減るところまでしっかり把握できていたとするならものすごい話ではないか。

 5000人という開発に携わった人数にしても、何千万行という天文学的なソースコードの量にしても数値的にはまったく問題ない(これ以上のものって存在するか?)。運用実績という点でも申し分ない。だって予定から年単位で遅延しまくりながら利用されてきたのだから。ひょっとして、マイクロソフトが作った中で最高のスケーラビリティ、堅牢性、TCO 削減を実現するシステムになりうるのではないだろうか。

 成毛社長、このアイデア、MS-BugChaser(mayo さん命名)如何でしょうか。遠慮なくパクってもらって結構ですよ。最近ではあなたも「Windows 2000は、Windows 98の後継ではなく企業向けの製品である。初心者にお勧めするものではない。」などとちゃんと正論が言えるようになったじゃありませんか。いつまでも中村正三郎から「アスキーの倉庫番から成り上がった小物」呼ばわりされるのもウンザリでしょ? 早速見つかった Windows 2000 の日本語版独自バグなんてものから目を逸らすためにも善は急げですよ。それができれば誰もあなたをラオックスの社長と間違えるなんてことは起こらなくなりますよ・・・と予定調和的なオチになってしまうのだが。

 というかさあ、マイクロソフトの人間も製品も余りにもマイクロソフト的な予定調和に染め上げられ過ぎなの! そこを突き破ってみないかね、マジで。


[後記]:
 この文章は、僕にとっての技術コラム界(ってあるのか?)のある先輩を悔しがらせたという、記念すべき文章。

 あとこの文章を書いてからしばらくして、成毛真は MSKK の社長を辞めた(辞めされられた?)。まったく、この業界は動きがはやい。


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初出公開: 2000年02月19日、 最終更新日: 2000年10月29日
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