YAMDAS Projectの10年間
ベンジャミン(以下ベ)と yomoyomo(以下Y)の与太話。2009年2月7日、居酒屋にて。
Y、ベ:かんぱーい、お疲れさま
ベ:何だかすっかり落ち着いた乾杯に慣れちゃったな
Y:YAMDAS Project 10周年ということで。ばるぼらさんの『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』の中に(219ページ)、1999年2月7日に開設、とあるんだけど、実は2月7日は飽くまで仮公開で、2月14日に海坊主に「これでいい?」と正式公開したんだけど、まぁ、2月7日にウェブ上に公開されたんだからこの日が始まりなんだね
ベ:えっ、今日がキッチリ10年なの? 日にちのことは大まかなのかと思ってた。大体2月なのねー、と
Y:そうだよ! だから今日帰って来たの
ベ:日にちにこだわってるのお前だけだけどね
Y:あ、でもね、一人気付いた人が Twitter でお祝いメッセージくれたよ
ベ:数えで10歳なの? 満10歳なの? キミんとこの出来のいいお子さんは
Y:満10歳……そういえばワタシの実際の姿とウェブの文章の両方を知る人に、「ウェブのほうが実際よりまとも」って言われたことがあるんだけど、アナタから見てどうですか?
ベ:そのまんまだね(笑)。最近は、ここ4、5年は肩の力が抜けたと思うけど
Y:最初はつっぱらがってましたからね
ベ:最初サイト始めるとき、海坊主に声かけたんだっけ?
Y:これは何度も言ってるけど、98年の秋、キミが福岡に来て天神で飲んだときに、ウェブサイト一緒にやろうよ、と声かけたわけ。キミはキッパリ断ったんだよね! でも俺は一人でやる自信がなくて、海坊主に声かけたわけ
ベ:あいつあの頃学生だった?
Y:そう、学生。今は医者だけど
ベ:誘いを断ったホントのところはね、「何だお前、ホームページ作るの?」って小ばかにしたら、「ホームページじゃねえよ、正しくは『ウェブサイト』って言うの!」と逆に勝ち誇られて拗ねたんだよ
Y:別に勝ち誇りはしなかったと思うけど
ベ:まあ、それから他の知人には「ウェブサイト」と必ず言うようになった俺がいたんだがな、えへっ
Y:そんなことが理由だったとは……
ベ:まぁ、あの頃オレ mixi に夢中だったから、どっちにしろ無理だったんだけど
Y:ねーよ! あの頃は mixi なんて影も形もなかったよ!!
ベ:ところであのときキミはどっちで始めたの? Nifty? それとも PC-VAN?
Y:パソコン通信じゃねーんだよ!!
ベ:あれだろ? あの頃はカセットテープでアップロードしてたの?何だっけあれ、受話器を直接のせて
Y:PC6001mkIISR の時代じゃねーんだよ!!
ベ:会社のパソコン使ってやってたの?
Y:やってねーよ!! ……でもね、当時は、自分には何か書けるんじゃないか、その能力があるんじゃないかと錯覚してたわけ。でも、片方では続けられる自信がなかった。単純な個人サイトってやりたくなかったのよ。一つの架空のプロジェクトみたいにしたかったわけ
ベ:でも、未だに一人のくせにプロジェクトってんだから
Y:そう。もう今では便宜上「僕のサイト」って言うけど、未だに個人サイトと思ってなくて、YAMDAS Project の概念があって、その価値観に縛られている。自分でこれ書けると思っても、それは YAMDAS Project に公開する文章じゃないと却下したことが何度もある
ベ:実は何人ものお前で構成されているんだろ(笑)お前の多重人格が何人も出て来るという
Y:今だから言いますけど、実は yomoyomo ってのは3人組のユニットなんですね
ベ:君の中の根暗な奴と、陰湿な奴と、陰険な奴と……よく読んでる人には3人の君の違いが分かるんじゃないかな
Y:(笑)3人ともほとんど同じじゃねーかよ!! 始めた当時はキミにも書いてほしくて頼んだりしたんだけど
ベ:オレ当時はデイリー毎日のサイトで忙しかったから
Y:お前は WaiWai で書いてたのかよ!! まぁ、10年続いたのは一人でやったからなんだけどね。さっき言ったように自分は架空のプロジェクトの理念に縛られている。でも、それが理解できるのは僕だけだから……結局は僕のサイトなんだよね
ベ:えっ、今気付いたの? それを気付くのに10年かかってんのかよ(笑) ……99年というと、恐怖の大王だっけ? 2000年問題があったのは――
Y:いや、まさに2000年の前の話だから99年だよ。サイト始めた頃はダイヤルアップ回線でインターネットつないでた
ベ:従量課金制の時代は、画像を表示しないでインターネットやってたな。テレホーダイに変わってエロ画像が集められるようになり、ブロードバンドでエロ動画が見れるまで進化したんだよ、ADSL とかいつ頃からだっけ?
Y:うちの場合、2002年のはじめにブロードバンド回線になったっけ。ところで最初ワタシのサイトを見たとき印象はどうでした?
ベ:硬っ! 硬っ! 硬っ!
Y:(笑)
ベ:だんだんと山形(浩生)さんのようなくだけた文章が書けるようになった頃に、オレが「そろそろ参加してやってもいいかな」となったのかな
Y:何だよ、その上から目線は
ベ:あんなとんがった、文字だらけのサイトに……
Y:写真なんてほとんどなかったし、動画なんてありえない、という感じだったから
ベ:あの頃は写真なんて絶対載せないとか言ってたのに
Y:そんなこと言ってないよ
ベ:言ってましたー
Y:違うって。お前が「(アクセス数を増やしたければ)さとう珠緒の画像でも載せたら?」とか言いやがって、うちは文章を読ませるサイトなんだ、冗談じゃねえって
ベ:今じゃさとう珠緒って誰よって感じだから
Y:時代を感じるね。もっとも最初の数年に書いた文章は一つ残らず何の価値もないゴミだけど。ところでキミと初めて対談をやったのは……
ベ:あれは魚民の二階でやった清原対談だね(注:これは実は正しくない)
Y:三人でやった奴
ベ:あれが2000年だっけ? あの頃やってたサイトのどれくらいが残ってるんだろう
Y:当時の個人サイトは、トップページがあって、日記ページがあって、自己紹介ページがあって、掲示板があって、という様式があったんだけど、僕のところはそれは採用しなくて、例えば掲示板とか入れなかったんだよね。コミュニケーション志向じゃないから。それも長続きにつながったと思う
ベ:未だに HTML で書いてるの?
Y:うん、本サイトのほうが未だに手書き
ベ:へーっ、それってすごいじゃない(ニヤニヤ)
Y:何だよ、その見下した目線は
ベ:片方で iPhone とか持ってるくせに。片方では手書き。いやー、先駆者は違うね(ニヤニヤ)
Y:何だよ、その小バカにしたような感じは。ムカつくな。そういえばさ、これだけキミと対談やっても、未だに「ベンジャミンさんって実在するんですか?」とか聞かれるんだよね
ベ:誰に?
Y:オフで会う人に。でも、それって俺に対して失礼というか、俺がアブない人みたいじゃないか
ベ:今までの対談は、yomoyomo 君の頭の独り言だったんです。そういえばキミの部屋の両隣は引越しが絶えないんだって? 夜中になるとイッセー尾形のような一人芝居が始まるという
Y:失礼な……
ベ:ところでキミはこれからも続けるの? サイトをやめるの? それとも「やめるやめる詐欺」をやめるの?
Y:「やめるやめる詐欺」って……他の人からも言われたことあるけど
ベ:どっちをやめる? サイトをやめる? 「やめるやめる」言うのをやめる? 人間をやめる?
Y:人間をやめるか! でも、キミから昨年秋に「ウェブの活動はお前のためになってないから全部止めろ」と強く忠告されて、それを想像したときに、自分でもびっくりするくらい動揺したのよ。それで思ったのが、自分自身にすら yomoyomo を殺せないということ
ベ:もう変身願望はいいだろ。現実世界にカムバック(笑)
Y:この10年の yomoyomo の活動は、現実と自分がやりたいことの折り合いをつけるための試行錯誤だったんだろう。でも……もう限界なんだろうな
ベ:とりあえず毒舌は止めたら?
Y:それはとっくに止めてる。未だにそういうレッテルを貼る奴がいるんだけど、攻撃的なことはほとんど書かなくなったから。今は自分の内的なテンションを保って文章を書くことにしか興味がない
ベ:でも、これからどこに進むの?
Y:そういう意味では未来はないのだと思うんだけど。この10年も何度か危機はあって、まず99年始めた当初、これは前も話したけど本業のプロジェクトがアレになって……で、6月に(中略)があってね。今から思えばよくあのとき閉鎖しなかったなと思う
ベ:あれが99年か
Y:2回目は『Wiki Way』の翻訳を始めた途端に家族の問題とか立て続けに起こって……
ベ:YAMDAS をやってる限り彼女ができないんじゃないの?
Y:まれに性交渉はありましたけど
ベ:書いてるページがあんなじゃ、彼女が見たらショック受けるだけだろう。俺のエロ動画フォルダの方が健全です
Y:どういう意味だ、コラ(笑)
ベ:更新頻度を下げたら?
Y:毎日更新してる人に比べたら、俺なんか十分少ないほうだよ
ベ:それって生活があって、空いた時間でサイト運営してるんでしょ。キミみたいにサイトに生活を取られてどうする
Y:2回目の危機の後、死ぬ気で『Wiki Way』の翻訳を終わらせて、でもそれが終わったと思ったら、直後に人生最大の間違った決断をしてしまって目もあてられない状態になって……でも皮肉にも、そんな頭がおかしい状態で書いた文章で知名度が上がったという。そして3度目の危機は……今です。ここ一年ちょっと
ベ:なんか閉店セールをずっとやってる大阪の店みたいだね
Y:いやでもね、やめると口走るときは本当にそう思ってるんだけど。そうなっても自分がショックを受けないように、自分に言い聞かせている、というのが正確か
ベ:本当にやめるならすっとやめるでしょ
Y:だから、今後は自分の考えがどうこうというより、外的な要因で嫌でも止めざるを得ないという状況になるんだと思う
ベ:俺だったら、めんどくせー、と思ったらすぐ止めちゃうけど。わかった、「やめる」が嫌なら「解散」だ。そもそもプロジェクトなんだし、解散にしな。なんか YMO ぽくていいじゃん
Y:YMO だと解散じゃなくて散開だけどな
ベ:もう、まんどくせーなあ
Y:うちみたいに長期の休止や移転とかなくずっと続けてれば、どんな内容だろうが認知度は上がるのよ。その程度のものだから。まぁ、10周年ということで対談してるわけだけど……10年後またやってたら恐ろしいね。絶対ないと思うけど
ベ:やってるよ、キミのことだから
Y:この10年、キミが言うように私生活を犠牲にした部分は間違いなくあって――
ベ:でも、楽しかったんだろ?
Y:……楽しかった(笑)
ベ:それなら犠牲じゃないじゃん
Y:楽しかったけど、同時にすごく嫌な思いもしたけどね
ベ:嫌な思いをしたの? させたの?
Y:両方。自分だけ被害者面するつもりはない。でも、こんなひどいことをする人間がいて、それで平気で他人を指差して笑える人間がいるのを知ったのはインターネットの良いところだと思う
ベ:神経質になるくらいなら止めれば?
Y:未だに……自分は素晴らしい文章を書けるのではという幻想があるし、価値のある文章を書きたいという気持ちは変わってない。僕の理想は、飽くまで僕が書いた文章が話題となることであって、yomoyomo という書き手に注目にあたることじゃない。ネット上で名が知れることで良いことなんてひとつもないね。これは断言できる。何一つない
ベ:でも、それで食ってる人がいるわけだから
Y:それを目的としている人はそれでいいだろう。僕は飽くまで自分が書いた文章のみが話題になってほしい……まぁ、それは不可能なんだけど。正直10年前はネットで有名になることに興味があったけど、今はない
ベ:なら、地味にやってけばいいじゃん
Y:今まさにそうやってる。そうした意味で、今の生活を続ける限り、本業は忙しくなる一方なんだから、自ずと yomoyomo はフェードアウトするんじゃないの? そういえばアナタさ、僕は何度か文章書いてとお願いしたんだけど、書きたいと思ったことない?
ベ:ない(即答)
Y:でも、対談ではでかい面するじゃない。「俺の対談」とか言って
ベ:え、違うの?
Y:(笑)「俺のサイト」とかまで言うじゃん
ベ:アフィリエイトが全部の俺の懐に入るという契約を結んだじゃん
Y:なんでてめーにアフィリエイトが行くんだよ!!
ベ:なんだよ、俺にサイト引き継いでほしいのかよ
Y:でも、もし俺が死ぬことがあったら、サイトの管理はキミに託したいんだけど
ベ:管理なんかしねーよ。めんどくせー
Y:……ああ、そうなの
ベ:10年先も、20年先も、キミはやってるよ、多分
Y:対談のはじめにキミは PC-VAN とか言ってたけど、主戦場が変わって、今のウェブがかつてのパソコン通信みたいになる可能性は高いわけで。実際そうなるんじゃない?
ベ:ウェブという遊び場でこの10年遊んできたわけだ
Y:気がつくと周りは皆結婚してましたけどね。僕はひとりぼっちだったわけです
ベ:もうここまで来たんだからずっと続けます宣言をしたら?
Y:キミがよく「お前が言ったことは反対になる」って僕に言うじゃない。僕もそれが怖いの
ベ:続ける、と言ったら終わると?
Y:そう、俺が力強く keep on rockin' とか言った途端に、すいません事情により終わることになりました、というのは悲しいから
ベ:10年の結論。もうどうでもいいね!