テレビの時間
ベンジャミン(以下ベ)と yomoyomo(以下Y)の与太話。2011年9月23日、居酒屋にて。
Y:この2、3年のうちに実は3、4回対談やってんだよね
ベ:誰と?
Y:君とだよ、対談を
ベ:それってお前の中の根暗なヤツと陰険なヤツと――
Y:そういう『ファイト・クラブ』みたいなオチはいいから。実は全部自分だった、みたいな。録ったのにお蔵入りが続いたし、とにかく対談を復活させたいんで、今回はテレビの話を軽くサラっとやろうかと
ベ:君んとこはアナログテレビだったらしいね
Y:そう、こないだの地デジ完全移行で、とうとうテレビが映らなくなりました。あれいつだっけ?
ベ:7月の23か24日あたりじゃなかったかな?
Y:ということはテレビがない生活が2ヶ月近くになるんですね
ベ:ないならないで困らんだろ
Y:はっきりいって、テレビを切り替えないという選択をしたということはそう思っていたということなんだけど……でも、実際そうしてみると、ないとそれなりに寂しいものなんだよね
ベ:オレも大学一年のとき、一年間テレビがない生活だったよ
Y:入学と同時に買わなかったの?
ベ:買わなかった。見ないと決めてね、情報は口コミで信頼できるものだけ選択して……メディアの波に飲まれたくなかった
Y:なんだよお前、大学一年にして厨二病かよ
ベ:新聞は図書館で読むって感じで
Y:新聞もとってなかったのかよ
ベ:だから毛利衛さんがスペースシャトルに乗ったのを知らなかったしね
Y:新聞読んでねーじゃねーかよ
ベ:年末実家に帰ったときテレビで「日本中が感動の渦に巻き込まれました」と言ってるの見て、「あ、自分、その中に入ってなかったや」て
Y:でも、一年経って買ったんでしょ?
ベ:買ったというか……あまりに可哀相に思った親が送ってきた。でも、しばらく開けてなくて、ある日「テレビ見たいな」と思ったのが24時間テレビの日だったのかな
Y:日本テレビの24時間テレビぃ? 愛は地球を救うってか? あれを見たいってお前――
ベ:テレビに飢えてたからさ、あの日、24時間中23時間は見てたよ(笑)
Y:よほど飢えてたんだな。あの番組を23時間見れるって病気かよ。大学一年のときの君と今の僕との一番の違いは、いうまでもなくネットがあるかないかで、昔はテレビや新聞がなかったら、ホントもう情報から隔絶したわけだよ
ベ:でも、まだ学生だったからさ、そんなに世間のことを知らなくてもよかったわけで。でも……あ、ラジオは聞いてたね
Y:そういえば3.11の震災以降、メディアの価値を増したのにラジオがあるんだよね。まぁ、自分はこれもネット経由でポッドキャストの形で聞くのが多いんだけど。ラジオはでかい
ベ:ラジオね、一番ロートルなメディアだけど、まだ捨てたもんじゃない
Y:話をテレビに戻すと、昨年、地デジに移行しないと決めたんだけど、とはいえ昨年なんてここ数年の中で一番テレビ見てたんだよね。録画して見てた番組が『龍馬伝』、『ゲゲゲの女房』、『ハーバード白熱教室』と三つもあったから。子供の頃、親父が大河ドラマを見るせいで『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』を見れなくて恨めしく思ってた少年がこうなるとは信じられんよ。今、自分が興味あるテレビ番組が NHK である率がかなり高いわけで
ベ:NHK 見る割合が高くなってきたのはお互い枯れてきたからかねえ。ところでお前のテレビ、今は DVD 再生専用モニタなの?
Y:そう、ハードディスクレコーダに撮りためたヤツを見るか、DVD をかけるか
ベ:金持ってんのに、薄型 TV 買わないの?
Y:まぁ、テレビを買う金がないとは言わんが。何でそうしなかったかというと、ありがちなテレビ批判、最近の番組はつまんなくなったみたいなヤツ、そういう主観はワタシも確実に持ってんだよね
ベ:火曜日のゴールデンなんかすごいよ。ホント見る番組ないんだから。俺にとっては魔の火曜日、頼みの NHK ですら地味過ぎるんだよなあ
Y:君は未だテレビっ子だね。それでアナタ、韓国ドラマは嫌いなんですか? 韓流ごり押しは許せないと?
ベ:韓国ドラマのコンテンツ自体が嫌いとかはない、有名どころはいくつか見たけど、今は見ない。ごり押しいうなら、K-POP のごり押しの方が気持ち悪い
Y:自分がテレビをイヤになった理由にそこら辺も確実にあるんだよね。韓流ドラマはまず見ないし。でも、それは大きな理由じゃないけど。そういえば今年夏にあったフジテレビへのお台場デモとか、ネット右翼のベンジャミンさん的には賛同してるんですか?
ベ:ネット右翼のボクとしては……って、おい!(笑) 別にデモやるのはいいんだけど、ああいうのでデモって、なんかみんなヒマなんだな、と思ってる。でも、夏休みのお台場で家族連れに向かってどなってた連中がいて、あれはないなと、駄目だろ
Y:観光で来てるような家族連れに対してね
ベ:便乗して何でもかんでも罵倒する困った輩はね。まぁ、韓流ごり押しならいまや日テレのほうがひどいんだけどさ。それに地方だからフジのキー局とは韓流枠の量が違うから、あそこまで目くじら立てる理由が俺には無い
Y:前に言ったようにそこらへん含め、ステロタイプな不満はワタシの中に確実にあるんだけど……しかし、テレビがなくなったらなくなったで寂しいもんですね。それ以前にもたまにさ、自分が Twitter をやってて、タイムラインで持ち上がる話題があって、例えば『JIN-仁-』とか、あれが面白いという声をいくつも見るとさ、ちゃんと初めから見ておけばよかったとそれに参加できない自分を悔やんだり
ベ:『JIN-仁-』は第一シーズンがすごく視聴率が高かったからね。ただ今回は地震の直後だったから、人の生死に関わるシーンが多いドラマは……あれは震災の後はちょっと辛かった。だからあのときみんな癒されたくて『マルモのおきて』に行ったんだよ
Y:それは全然知らないんだけど
ベ:でも、ホント見る番組がなくなったからなぁ
Y:そうはいってもさ、君は俺に『それでも、生きてゆく』が面白いから見ろ、と何度も推してたじゃない
ベ:あれは近年稀に見る暗さのあるドラマだったから
Y:あれはすごいドラマだよ。一言で言えば、凶悪犯罪の加害者家族と被害者家族の物語なんだけど。被害者側の家族は皆、柄本明と大竹しのぶの両親、そして瑛太もそれぞれ違った罪悪感を抱えていて、しかもそれだけのドラマじゃなくて、加害者側と接点を持ってしまって――
ベ:そんなめんどくさい説明はいいんだけどさ、俺としてみては、こんな不幸がてんこもりなドラマで稀にみる面白さがあるなと。加害者家族が苦しむというのがこれまで取り上げられてなくて、タブーだったから
Y:加害者側の家族でも事件があったときの年齢で、まったく受け止め方が落差があるというのもリアルで。例えば、一番下の妹など事件のことなど知らないから、自分のほうが一方的に被害にあってるという意識だし
ベ:しかも姉妹の母親は違うのよ、というどん底の追い打ちだし。満島の野茂も良かったし、瑛太の台詞回しや、時任へのこれでもかという仕打ちが――(しばらくくどい説明が続く)
Y:そこらへんになると見てないから分からないんだけど。でもね、今のテレビに対するステロタイプな批判があって、一方では視聴率は取れてないけどあのドラマみたいにすごい意欲的な、つまんない邦画なんかより遥かに重いものを引き受けて、しかもそれをテレビでやってる。つまり「テレビはつまんない」みたいに大くくりにできないし、テレビ自身も引き裂かれている
ベ:あと『それでも、生きてゆく』ね、映像的にもすごく美しかったんだよね
Y:それも計算に入ってるはずなんだよね。そういう映像が美しいドラマかと思わせてとんでもないという
ベ:日本のドラマがつまんなくなったと言われるけど、要はさ、この10年、マンガ原作のドラマが多すぎたんだよ
Y:とはいえ、例えばワタシは昨年『モテキ』のドラマをすごく好きで見てたからね
ベ:マンガが面白かったのに、テレビドラマはイマイチなのも多かったし。脚本家の問題だろね。『モテキ』に関してはリリーさんの存在感と森山未來のポテンシャルの高さが良かった
Y:土井亜紀役の人がよかった。あとワタシはあのドラマでようやく満島ひかりを発見したし。映画版も楽しみ(すごく良かったです)。マンガ原作のドラマが多いのは、ネタ切れと言ってしまえばそれまでなんだろうけど
ベ:一方で韓流ドラマもね、東海テレビのドラマを見続けてきたオレからすれば別に新しいことはねぇ、という
Y:東海テレビのドラマって……昼ドラてこと? そんなの好きだったの? たわしコロッケを食わせたり
ベ:まぁ、東海テレビのドロドロ感が好きな人は韓流ドラマ好きなのかもしれないけど、今はもうどっちも見なくなったね
この後、韓国人芸能人と釈由美子の整形話、そして日本のアイドルの話になるが、ここには掲載できません。このあたりから二人ともかなり酔っており、話が堂々巡りを始めます。
ベ:AKB のビデオクリップなんか見てるとなんだか気恥ずかしくなるんだよねえ。直視するのが少し恥ずかしい。あれだったら少女時代のビデオをほうが堂々と見れるというのはある
Y:だって、質的には少女時代のほうがはっきり凌駕してるわけで
ベ:「質的に凌駕してる」とかいうのは意味がない表現だと思う。ジャンルもターゲット層も違うんだから。「ドラマは韓流のほうが上ですから」とか言いたがる奴がいるけど――
Y:例えば、映画に関しては……これもワタシ自身はロクに観てないんでアレだけど、自分が映画評を信頼して読んでる人の複数の意見を鑑みるに、映画に関してははっきり向こうのほうがアドバンテージがあるんだろう、と。ワタシもいずれちゃんと観なきゃとは思っている
ベ:そりゃ良いのは韓国の映画にしろ、邦画にしろあるんだから。すべてを凌駕したみたいに言うのはナンセンスなんじゃないの?
Y:大文字でどっちが上と言い立てることは意味がなくて、ちゃんと質の良いものをどれだけちゃんと拾い上げていくしかないわけで。『それでも、生きてゆく』なんてこれまでの日本のドラマではありえない領域に踏み込んでるわけで。大竹しのぶが自分の娘を殺した相手に思い切りビンタしたあの場面――
ベ:なんだろう、ガキのときのケンカで「んー」って震えながら相手を掴む感じを再現してるのがすごかった。大竹しのぶは世界的にも稀有な女優だよ。母親だったら困るけど
Y:君がさ、昔の対談でね、少年犯罪の加害者について言ってたじゃない
ベ:加害者家族の苦悩をちゃんと描いて、それを見てれば犯罪衝動の抑止になるんじゃないかってやつね
Y:君が言ってたじゃない。ああいう犯罪者は反省しない、犯罪をおかしたあのとき自分は病気だったんだ、という言い訳を社会が与えるからと。それを聞いたときは、俺はそれはどうかと反論したけど、『それでも、生きてゆく』というドラマの中の話ではあるけど、少年犯罪の加害者がまさにそのままの台詞を大竹しのぶに向かって言ってたんだよな
ベ:「病気なんです、そういう病気なんです」って、ドラマの中だけどホントあのまんま言ってたからね……満島ひかりのとび蹴りのシーンなんか面白かったよね。例えばだね、邦画でも『告白』とかあんな爽快な映画が韓国の映画にあるかね?
Y:あの映画を「爽快」というお前の感性が根本的におかしいと思うけど(笑)
ベ:溜飲を下げたという意味だよ
Y:例えば教室の場面とか、中学生にアドリブなんかさせないですべて計算した画つくりをしたのはすごいよね
ベ:ああいう良い映画があるわけで、韓流がすべてを凌駕したような言い草は――
Y:こだわるね。いやだから、あの手の話でイヤなのは、何かを誉めたければそれを誉めればいいんだよ。しかしね、それをやるのとセットでもう片方を蔑むようなやり口はホント苛々すんだよね。単純にこれがこんなに良いと言えばいいのに、こっちがこんなにダメだからこれはいいんですとか、それは違うだろと
ベ:まぁ、少女時代も KARA も大して好きじゃないけど、自分に娘がいて、あれと AKB とどっちに行ってほしいかというと少女時代とか KARA のほうに行ってほしいというのはある
Y:AKB よりもね。そりゃそうでしょう
ベ:自分の娘が二十歳前であんなに水着だ下着だになってほしくない
Y:そういう意味かい(笑)
ベ:男親ならね、あれは切ない、と。ビデオ見てないの?
Y:俺は文字情報でそういうものだというのしか知らないから
ベ:でもさ、少女時代とかのプロデューサーが MAX とかあのへんを意識してると言ってて――
Y:そうそう、クリエイティビティは過去からの継承が必ずあるのよ。批判的、といってもけなすという意味じゃなくて、正当に評価して受け継ぐという
ベ:そういう意味で日本のアイドルと少女時代とかを比べるのも違う気はするね
Y:……そろそろ何かこの対談のオチがほしいな。パンチラインが
ベ:そんなのはどーでもいいんだけど、そもそもお前さ、テレビ見てない見てないって散々言ってるけど、大竹しのぶがビンタしたとかそういうのどこで見たんだよ
Y:えっ………いや、街頭テレビじゃないかな? みんなが力道山のプロレス見るやつ
ベ:それじゃオチにならんよ