四十歳記念
ベンジャミン(以下ベ)と yomoyomo(以下Y)の与太話。2013年9月14日、Skype チャットにて。
Y:今月ワタシも40歳になるんだけど……これをやってる時点ではまだなんだが、それはともかく半年ぐらい先に40歳になった君に聞きたいんだけど、何か感慨というか思うところはあったか? 40になって
ベ:君は、「40になってもいいよ」の許可申請通ったのかい?
Y:許可がいるのか!
ベ:もう受付期間終わってるだろうから、君は永遠の39だな。かっこいいじゃん、永遠のサーティーナイン
Y:アホか。しかし、何がどうなら40歳許可なんだろうね……
ベ:40になると、こんなにしおれた会話をしてしまうのだよ。四十肩、間違いなくやってくるぜ
Y:肩があがらなくなるやつか。ワタシはまだだね。肩以外でもやはり肉体的な衰えというやつを感じる?
ベ:襟足に汗をかくようになってくる……自分の枕のにおいで目が覚める
Y:加齢臭デビューか!
ベ:だから、こんなことは俺だけでいいから、君はこっちに来るんじゃないよ! 君は、そう、『Wiki Way』の表紙のように、永遠に39を彷徨ってくれ
Y:何が永遠じゃ。まぁねぇ、そうできるならしたいもんだけど、時間は止めることも逆回転もできないから。しかし、子供の頃って正直30歳でもおっさん、40歳以降に自分がなるなんて想像もできなかったのにね。君は子供の頃、40歳になったら自分はどうなると思ってた?
ベ:末は博士か大臣か、と周囲から言われてると妄想して育ってきてたんだが、助手にもなれませんでしたな
Y:それを言うなら、ワタシなど田舎の秀才の下り坂人生だけどね。考えてみれば、ワタシは父親のほぼ40のときの子供なんだな。で、ワタシもその歳になるわけだけど、子供どころか結婚すらできてないという。さすがにお互いこの歳まで独身とは思わなかったろう
ベ:えっ、俺ってここでは結婚してないって設定になってるの?
Y:勝手にほざいてろ。しかし、この点については自業自得とはいえ、悲しくなる。しかし、精神面はどうかい? 不惑というくらいだから惑わない落ち着いた人間になれた……わけはないか
ベ:生まれたときから不惑です――まあ、こんなこと言ってるから、流行の「実質」独身です、なんだな
Y:なんだよ、実質独身って。それなら君にとっての30代はどうでしたか? 充実してましたか?
ベ:10代、20代、30と、あたいの人生暗かったあ
Y:ここで藤圭子ネタをもってくるか。しかし、真面目な話どうよ? 30代として過ごした10年で何かしら成果というか成長はあったのかね?
ベ:君はあったよね、あったんじゃないかな、あったような気もする
Y:ワタシは人間的な成長は分からんが、肉体的にも精神的にも能力はどんどん落ちてることは間違いない。ただいろいろ犠牲にして、yomoyomo としてはそれなりの仕事はできたろうよ。それに何の意味があるかは分からんが。君にとっての30代はどうだったかい?
ベ:そうさねえ、あたいの30代、喜びも悲しみも幾年月だねえ、胸を張って言える結果が無いのが悲しいくらいかな
Y:この話はいれざるを得ないんだけどさ……今年の正月に高校卒業20周年(は正確には昨年だけど)で高校のときの同窓会をやったじゃないの。あれで久しぶりに同級生に会って、どんな感慨があった? お互い変わってたのか、思ったほど変わってなかったのか
ベ: 行く前は、高校の時のノリというか、力関係じゃないんだけど、そういうめんどくさい姿勢で絡んでくる奴がいたらめんどくさいなあ、と思ってた。でも、みんな大人だったよねえ。あいつも、あいつも、さらにはあいつまでもが、俺も含めて大人になってた。いや、そういう杞憂をしていた時点で、たぶん俺は大人ではなかったのかも……
Y:それは「あいつ」がいなかったからだよ。まぁ、意外にうちのクラスで独身の人間が男女ともいたというのはあるかもしれんね。下手したら来たメンバーの中で、独身は俺たちくらいなんて惨事も心配してたわけで。しかし、君自身は自分のことを大人になったと思うかい?
ベ:ええまあ、そりゃ、生命体的経過年数と申しますか、劣化具合の指標からすると、大人です、なんですかねえ……
Y:しかし、その折角楽しかった同窓会の最後になって暴れた挙句、バーで戻すという醜態を晒したワタシは大人とは言えないのかもしれませんね
ベ:恥は全部30代においてきたよ、俺は
Y:それで40代はどういう10年にしたいですか? 枕からは加齢臭がする年代だけど
ベ:俺が40になって、YAMDAS対談もこうしてチャット形式という、YAMDAS対談2.0に進化したわけだ
Y:質問に答えろよ(笑)
ベ:だから、40代は、そろそろ――
Y:そろそろ、何?
ベ:反撃してもいいですか
Y:おう、してもらおう、何にだよ!
ベ:世の中の腐った大人たちにだよ!
Y:DoCoMo2.0 じゃねぇのかよ! なんだ、その厨二病的というか……お前は、校舎の窓ガラスを壊してまわる尾崎豊の不惑版かよ
ベ:一緒に割ります? ガラス。それとも、夜のプールで泳ぎます?
Y:夜のプールで泳ぐ……『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』かよ。ああいう青春は我々にはなかったし、もう体験することはありえないのだよ。
ベ:おい、そこで「我々」とひとくくりにするんじゃないよ。俺の思い出は、美化されてるの、書き換えられ済みなんだからさ
Y:まぁ、君が飽くまで逃げをうつから自分のことを喋らせてもらうと、ずっと前から、いやぁ、もう歳ですよとかいいながら、そうでもないとたかをくくっていたところがあったわけだね。しかし、段々と肉体的にも環境的にも、これはまだ自分は大丈夫と思っていたところがどんどん剥ぎ取られる感覚がある。それが失われてから、これまで奪われるのか、これぐらいは残しておいてくれよ! と愕然とするも、老化と状況の悪化は止まることがない。これは具体的に書けないくらい悲惨な話だよ
ベ:やっと自分語りを切り出してくれたか……ずっと待ってたよ。で、どんな風に悲惨なの?
Y:そりゃアナタ、この歳になって結婚すらできていない。帰省して老親と言葉を交わすたびに本当に申し訳なくなる。40歳になる段階で結婚はおろか彼女すらいないというのが実質確定したときはちょっとね…… Coldplay の歌詞じゃないが、「そして涙が頬を伝う 取り返しのつかないものを失い 誰かを愛しても報われない これ以上悪くなりようがあろうか」という塩梅ですね
ベ:うちの親なんて、俺の孫を諦めたのかドラマの子役に夢中だぜ。そしてそれらのドラマを俺が録画したやってる不条理さ。そもそも君はウェブサイトに心血注ぎすぎだよ
Y:それはね、ドラマの子役を自分の孫に置き換えてるんだよ。結局この10年……来年の2月でウェブサイト開設15周年になるが、yomoyomo としての活動にワタシの人生が蝕まれてしまったというのは、もう否定できない。活動期間が長くなれば長くなるほど、yomoyomo というふざけた名前を使うことのいたたまれなさは増すばかりで、これもまた本当に悲惨だね。しかし、その仕事を除くともうほとんど何も残っていない。それなりに優れた仕事をした覚えもあるのだけど……結果として得たものは満足感ではない。悲惨の一言だよ
ベ:おい、yomoyomo に失礼だぞ、yomoyomo の仕事と結果にもっと胸はれや! 最初はつっぱからしてた駄文サイトだったが、俺も加わり(笑)サイトの質も向上し、翻訳も増え(そのたび死にそうになるのは勘弁だが)、公開媒体も広がり結構いろいろな分野で広がってるじゃないか、君がまいた種は……でも、やっぱりなんで「yomoyomo」というふざけた名前なんだろね
Y:ねぇ、なんでだろうね。15年前の自分に言ってやりたい……と思いつつも、これでよかったと思うところもあるんだよな。いや、おそらく君が評価する以上にワタシは自分の仕事を高く評価してるんだが(笑)、それは他人の評価とまったく別の話だから。それにしても、人生後半戦だよ。よく言われるのが、年齢を3で割って、それを時刻に見立てるというのがある。つまり40は3で割って13、つまり13時だね。まだ昼間ではあるが、後半に入ったことは間違いない。どうよ?
ベ:そこで便利なのが「四捨五入」ですよ、yoboyobo、いや yomoyomo さん。てか、君本質的にそこまでペシミストじゃないだろ本当は
Y:まぁ、40を四捨五入すれば0だしな(「あまちゃん」方式)。ワタシは性格は暗いよ。ペシミストであるのが処世術の一部になってるところもあるんだろう。ただ、死ぬまで「『Wiki Way』刊行直後に交通事故で死ねばよかった」と思い続けることになるのかと思うと……こういうのを生きてると言えるのかワタシには分からない
ベ:まあ、「あまちゃん」のくだりは知らんから、俺の感性がアマちゃんなんだろう。しかしニーチェを愛するニーチェストなる僕が、ペシミストを売りにする君に40の心構えを教えるとすれば、ニートゥーチェストだよ、君
Y:腹筋をやってつまらん悩みをふきとばせということですか。まぁ、お互いいい歳ということですね。なんか言い残したことあるかい?
ベ:お互いのおなか周り見て、向こうよりはまだマシだとこっそりほくそ笑む世界は40代には持ち込まないようにしようぜ
Y:そういうのが確かにあったけど、気がつけば自分もひどいもんになってたからね
ベ:俺らの油断は内面よりも下腹部が外面的に駄々漏れになってるんだからな
Y:お互いそういうところがだぶついてきたわけですね。悲惨ですね